コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第10回
2000年10月1日更新
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先日、「Almost Famous」という話題の映画を見に行ったら、“ジェームズ・キャメロン最新作!”という「Dark Angel」の予告編が流れた。女の子版「ブレードランナー」といった感じのSF映画で、主演は見たことのない女優だったけれど、アクションが豊富でなかなか面白そうだった。いつごろ公開されるのかなと思って見ていたら、最後でナレーションが入った──“この秋 フォックス・テレビで”。つまり、新番組の予告編だったのである。
アメリカのテレビ界は秋が番組改編時期となるのだが、今年は映画組のテレビ進出が目立つ。ジェームズ・キャメロンのほかにも、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」のチームが新番組「Freaky Links」を手がけている。超自然現象にとり憑かれた二十代の若者たちが、さまざまな恐怖体験をするというサスペンスドラマだ。部分的にデジタルカメラを利用したり、ウェブサイトを徹底活用するところなど、「ブレア・ウィッチ~」そのまんまである。
映画監督がテレビに進出するのは、連続ドラマでストーリーテリングができることや、興行成績に左右されず作家性の強い作品を作れることなど、クリエイティブ面での魅力に惹かれた場合が多い。「テレビ製作は時間がかけられないから、早く決断するいい訓練になるんだよ」と、映画監督のトレーニング代わりに引き受ける、ジョン・ウーのような人もいる。
しかし、俳優となると話は別だ。アメリカで俳優のステイタスとは、「映画→テレビ → CM」という順序で落ちていく。だからメジャーな俳優はゲスト出演をのぞいてテレビには出ないし、CMも絶対にやらない(そのかわり、日本やイタリアで稼ぐが)。つまり、俳優がテレビに出演するようになったといえば、ランクが落ちたことを意味する。もちろん、テレビ出演にはそれなりのメリットはある。撮影はたいていニューヨークかロサンゼルスなので、毎日自宅から現場に通えるとか、定収入を得られるとか。でも、今シーズンからテレビに進出する俳優を見れば、そこにあるごまかしようのない悲しい雰囲気に気付くと思う。ジーナ・デイビス(「The Geena Davis Show」)、ベット・ミドラー(「Bette」)、ジョン・グッドマン(「Normal, Ohio」)、ガブリエル・バーン(「Madigan Men」)、ダイアン・ウィースト(「Law & Order」)、オリバー・プラット(「Deadline」)などなど。かつて主役を張っていたがお声がかからなくなった女優や、きらりと光る名演技をするが主役を張らせてもらえない俳優たちだ。「ターミネーター2」でT1000を演じて注目を浴びたロバート・パトリックも、そのイメージが強すぎて映画界で成功することが出来なかった。その彼は、「X-ファイル」でスカリーの新パートナーを演じることになった(契約上の問題で、モルダーはシーズン後半まで登場しない)。
そんな転向組のなかで一番の注目はチャーリー・シーンだ。治療に専念するために抜けたマイケル・J・フォックスの穴を埋めるため、「Spin City」に出演。ハリウッド一のバッドボーイに人気者マイケルの代役が務まるはずもないのだが、ミスマッチすぎて意外に面白いかも。シーンも「マルコヴィッチの穴」で一皮むけた怪演を見せていたし、もしかしてミラクルなキャスティングなのかもしれない。
いずれにせよ、皆さんには第二の俳優人生を満喫して欲しいものだ。
筆者紹介
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小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi