コラム:細野真宏の試写室日記 - 第79回
2020年6月24日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
第79回 試写室日記 「ソニック・ザ・ムービー」VS「名探偵ピカチュウ」、勝つのはどっち?
2020年6月18日@東宝東和試写室
ようやく日本では新型コロナ騒動も落ち着いてきて、映画業界も着実に動き出してきています。
とは言え、やはり新作映画が公開されないとプレミア感が少なく、大きな流れになりにくい面もありました。
そんな中、全国的な自粛要請期間が終わって最初の先週末公開の「ドクター・ドリトル」の堅調なスタートを見ても新作映画を待っていた層が多かったことが見えてきます。
そこで、今週末公開の「ソニック・ザ・ムービー」にも期待が集まります。
まず、「ソニック」というキャラクターを一度も目にしたことが無い、という人は、それほど多くないと思います。
ただ、そもそも「ソニックって何だっけ?」という人は意外と多いと思います。
例えば「ピカチュウ」を知らない人はいないと思いますが、それは「ポケットモンスター」がアニメ化され、テレビでも映画でもお馴染みの存在だからです。
一方の「ソニック」については、実は「ピカチュウ」の“先輩”のような存在なのです。
「ポケットモンスター」は、1996年にゲームで登場し、一大ブームとなり、その後にアニメ化、映画化などを定期的に続けられる成功を果たしています。
「ソニック」は、(日本のバブル経済崩壊の年の)1991年にゲームで登場したキャラクターなのです。
日本では、発売元の「セガ」のイメージキャラクターのように思っている人が多そうですが、この日本発の「ソニック」は、世界的にゲームのキャラクターとして今でも知名度のあるキャラクターなのです。
この「ソニック・ザ・ムービー」は、当初はアメリカで2019年11月に公開予定となっていたのですが、予告編が公開されると「ソニック」のデザインに対してブーイングが殺到していたのです。
確かに、最初の予告編を見ると「何が起こった?」と思ってしまうくらい全く可愛くなく、このまま公開されると、実写版「ドラゴンボール」(「ドラゴンボール エボリューション」)の悲劇の再来のイメージさえありました。
そこで、ジェフ・ファウラー監督は「デザインのやり直し」を決めて再出発し、2020年2月14日からアメリカで公開されました。
最初のデザインが酷すぎたので非常に心配していましたが、そんな杞憂を一気に吹き飛ばしてくれる大ヒットスタートをしてくれました!
初週のアメリカの興行収入は「名探偵ピカチュウ」(5436万ドル)を超える5801万ドルというゲーム原作映画史上、最高のオープニング記録を叩き出したのです。
実際に本編を見てみると、“超音速”のハリネズミである本物の「ソニック」がそこにはいました!
「ピカチュウ」の可愛さには負けてしまうかもしれませんが、「ソニック」も魅力的なキャラクターに仕上がっています。
ちなみに、アメリカの批評家サイトRotten Tomatoesでは、批評家の評価は64%で、一般層の評価は93%となっています。(6月24日時点)
批評家は「及第点」で、一般層は「とても良かった」と分かれているのは、ストーリーなどに深みはないのですが、単純明快で面白い映画に仕上がっているからだと思います。
「ソニック」の相棒役は、ジェームズ・マースデンですが、実は私は試写中に「あ~、あの人か」と思ったものの、名前が出てこなかったのです。
ジェームズ・マースデンと言えば、ミュージカル映画の名作「ヘアスプレー」での大スターのイケメン役、ディズニーのセルフパロディ映画として日本でも大ヒットした「魔法にかけられて」のエドワード王子役など、ハリウッドのイケメン枠として非常に注目されていましたが、気付くと以前ほど見かけなくなり、直近では「記者たち 衝撃と畏怖の真実」の主演で見て以来でした。
なかなか役者の世界も厳しいのだな、と思ったりしましたが、本作で再びブレイクしてほしいものです。
その意味で言うと、敵役の「ドクター・ロボトニック」を演じたジム・キャリーは、いつまでも良いキャラクターを保っていますね。
本作では往年のジム・キャリーが帰ってきています。
このように、本作が大ヒットしている背景には、「ソニック」の世界的な人気に加えて、脇の俳優陣が良かった点もあるのだと思います。
ただ、好調に爆走を続けていた「ソニック・ザ・ムービー」にも悲劇が訪れました。
アメリカの公開日が2020年2月14日ということからも想像できるかと思いますが、新型コロナウイルスのせいで映画館の上映が止まってしまったのです…。
そして日本でも3月27日に公開予定でしたが、公開延期になってしまいました。
ちなみにアメリカでは、「名探偵ピカチュウ」の興行収入が1億4410万ドルであるのに対して、「ソニック・ザ・ムービー」はすでに1億4606万ドルと勝っているのです。
そして、いち早く「ソニック・ザ・ムービー」は、続編が決定しました!
おそらく、これは制作費が関係しているのではないか、と思われます。
「名探偵ピカチュウ」の方は制作費が1億5000万ドルと意外と高かったのに対して、「ソニック・ザ・ムービー」の方は、あれほど大規模なCGの修整を行なったにもかかわらず8500万ドルと半額くらいで作ることができているのです。
さて、そんな「ソニック・ザ・ムービー」ですが、いよいよ日本で今週の6月26日(金)から全国拡大公開します。
典型的な「ファミリー映画」でもあるので、果たしてどのくらいの興行収入が期待できるのか、まだ非常に読みにくい面があります。
通常時であれば、興行収入は10億円くらいが目安だと思われます。
ただ、まだウイルスの影響がなくなっていないので、どこまで狙えるのかは判断が難しいと思います。
これは、あくまで個人的な感覚値ですが、とりあえずの現時点での興行収入の成否のラインは5億円に行けるかどうか、だと思っています。
この作品で当面のファミリー映画の動向も見えてきそうなので、日本生まれの「ソニック」には何とか爆走してほしいものですが、果たして障害物が多い中、どのくらいのスピードで走り抜けるのか注目です!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono