コラム:細野真宏の試写室日記 - 第157回
2022年1月26日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第157回 2021年映画ランキングから見える映画業界の実態と「ARASHI 5×20 FILM」興行収入
1月25日に映連(日本映画製作者連盟)から2021年の映画業界の概況と興行収入10億円以上の作品が発表されました。
今回は、2021年の総括として、この発表内容を考察します。
まず、映連が現在の「興行収入の形」で発表するようになったのは2000年以降のこと。1955年から1999年までは「配給収入」という指標で発表されていました。
とは言え、配給収入からおおよその興行収入は算出できるので、興行収入の比較は1955年から可能ではあります。
そういう視点で見ると、2021年の年間の興行収入1618.93億円というのは、2000年以前までの興行収入と実は遜色がないと言えます。
例えば、2000年の興行収入は1708.62億円とほぼ同水準で、2021年の年間の興行収入1618.93億円を上回っているのは、1955年から1999年までで15年しかありません。
特に、映画の平均単価が1200円台になった1992年以降では、1999年までの8年間のうち半分が2021年の年間の興行収入1618.93億円を下回っています。
そのため、ことさらニュースで「統計を取り始めてから過去2番目に少ない結果」という表現が強調されているのは、やや違和感を持ちます。
とは言え、新型コロナの影響なども含めて好調とは言えないのも事実。ここは冷静に現状を分析したいと思います。
まず、年間興行収入ランキングでは、1位「シン・エヴァンゲリオン劇場版」102.8億円、2位「名探偵コナン 緋色の弾丸」76.5億円、3位「竜とそばかすの姫」66億円と上位3作品がアニメーション映画となっています。
これは、日本のアニメーションの技術の進化と共に、日本ではアニメーションに親しむ人が全世代的に増えてきていることを意味していると言える現象でしょう。
この流れは、日本で今後も続くのではと想定されます。
そして、4位「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」45.5億円、5位「東京リベンジャーズ」45.0億円と邦画実写が続きます。
ちなみに、4位「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」については、現在も上映中のため、このような作品については2021年の年間ランキングでは取り扱いが難しくなるわけです。
23日時点で興行収入は43億2583万円で、この数字は今後もまだ伸びていきます。
そこで、映連では「公開中の作品については、事前に未使用分の前売り加算をできる」ようになっているので、その(すでに売り上げている)未使用分を加えた数字であると推測されます。
邦画実写1位の作品がコンサート映画であるのは史上初の結果で、この数字がこれから最終的にはどのようになり、また今後、このような作品が生まれるのか、など興味深い状況になっています。
一方、5位「東京リベンジャーズ」45.0億円は、平均単価の違いから、観客動員数では邦画実写1位なので、観客動員数では「邦画実写1位」と言える異例の結果にもなっています。
ここで注目したいのは、実は邦画の興行収入については、“歴代最高の興行収入2611.8億円を記録した記念すべき年”2019年の9割を超えるところまで回復しているのです!
しかも、昨年2021年は、「新型コロナの影響で緊急事態宣言などがあり映画館の休館もあった年」にもかかわらず、です。
そのため、邦画を扱う映画会社の業績は、新聞などで踊る「統計を取り始めてから過去2番目に少ない結果」という点とはかけ離れている面があるわけです。
では、なぜこのような乖離が生まれているのか。それは、本来「映画業界の“両輪”として機能すべき洋画」の不振があるのです。
日本では、1986年から2005年までは一貫して洋画が邦画よりも興行収入を上回っていました。
それが、新型コロナの影響が出始めた2020年では洋画のシェアが23.7%にまで減ってしまい、2021年には遂に20.7%と、1955年以降で最低のシェアにまで落ち込んでしまっているのです。
これは、もちろん、新型コロナの影響でハリウッド超大作映画が公開延期になっている点も少なからず関係していますが、私はディズニー映画の動きも小さくないと考えています。
例えば、2019年に日本の興行収入が年間歴代1位になったのは、やはり興行収入100億円超の作品を3本も出したディズニー映画の影響が大きくありました。
実際に2019年は邦画と洋画のシェアは、54.4:45.6と拮抗し“両輪”となっていることが分かります。
ところが、その後ディズニーはアメリカ本社が動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」に力を入れ、かつてのように劇場で大きく利益を出す、というよりは配信で利益を出す、という方針に現時点ではなっているようです。
しかも、ディズニーは20世紀フォックスも買収したため、「20世紀スタジオ」作品も劇場で振るわなくなってきている印象です。
もちろん、ディズニー本社は会社としては黒字ですが、動画配信部門では、新作の制作コストなどの影響で赤字が続いている状況になっています。
私は、映画は、まずは劇場で最大限の利益を追求し、そこで世の中に広く認知された後で配信、という流れの方が、作品の価値も企業利益も増えるのでは、と考えています。
そのため、日本では日本に合ったビジネスモデルが追求できるように、ディズニーのアメリカ本社に対する日本支社の発言力が増すことを期待したいところです。
さらに、新型コロナの影響があるうちは特に洋画は公開延期等も含めマイナス要素が小さくないので、この点は仕方ないと言えるでしょう。
いずれにしても、洋画の復活こそが大きな課題であると、冷静に今回の結果を受け止めたいと思います。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono