コラム:細野真宏の試写室日記 - 第134回
2021年8月5日更新
では、これまでの内容を踏まえて、2021年公開の第9作目「ワイルド・スピード ジェットブレイク」について考察していきましょう。
まず、このシリーズは、いつまで続くのか、ですが、実は「ゴール」は決まっていて、次の第10作目がラストとなるようです(ただし、前・後編の2本に分かれます)。
そのため、「車VS飛行機」「車VS原子力潜水艦」など、もうあり得ないくらいまでの設定を描いてきた本シリーズは、どこに舞台を移すのでしょうか。これは今のところ、おそらく「宇宙では?」と予想されています。
実際に、本作でその序章のようなシーンもあります。
本作では、凄いジェットエンジンを作っている“車いじりの好きな3人組”が登場します。彼らは(きっと、ほぼ誰も覚えていない)第3作目「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」の主人公を含むメンバーなのです。
これは知らなくても問題ないですが、あくまで「マメ知識」として知っているといいのかもしれません。
また、第3作目「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」で登場し、第6作目「ワイルド・スピード EURO MISSION」のラストに東京で事故死したように見えたハンが、本作で復帰します。
「生きているのかも」と、レティら女子2人組が日本に調査しに行きます。
ただ、残念ながら、見れば分かりますが、ロケ地は日本ではありません。おそらく、コスト的にもセットが組まれたようです。
とは言え、日本語の看板や言葉が行き交うのでギリギリ許容範囲内でしょう。
少しだけ気になったのは、レティら2人は屋台でラーメンを頼みますが、話に夢中なのかレティは全く食べてくれません。相方も麺は食べようとせず、トッピングのようなものを少し口に入れるくらいです。
まぁセットの屋台なので、そんなものでしょうか。
そんなことよりも、ハンに関連して新キャラクターの「エル」という女性がメンバーに加わります。
この女性を私は知らなかったのですが、ニュージーランド生まれ東京育ちの澤井杏奈(アンナ・サワイ)という方。2013年~2018年の間、日本のアーティストグループのメンバーとして日本全国をツアーで回っていたようです。
英語や立ち振る舞いを見ても、「また、なんちゃって日本人か」と思っていましたが、どうやらそうではなさそうなので今後に期待がかかります。
さて、本作は冒頭で登場する「ユニバーサル・ピクチャーズ」のロゴが“古いもの”になっています。
それは、“昔”の主人公ドミニクの「父親のレースシーン」から始まることに合わせてのようです。
そして、若いころのドミニクに加えて、ジェイコブという弟も登場します。
さらに、その弟ジェイコブが大人になって、本作の「敵」として再登場するのです。
今回は、このような時間軸での話に加え、「これまでの歴史」と「新キャラ」と「再登場キャラ」などが入り混じります。
そのため、ちょっとだけ混乱が生じるのかもしれません。しかし、基本は「カーアクション映画」で、その軸はしっかりしています!
本物の「カーアクション」にこだわった本シリーズでは、これまでの9作品で1万2000台以上の車を使用し、そのうち約2500台も破壊しています。
さらに、その約2500台のうち、本作1本だけで500台以上もの車が破壊されているのです!
そして、「ダークナイト」の“あのシーン”を超えるような独自の「巨大装甲車」を実際に4カ月かけて作ってしまうなど、気合いが入りまくっています。
本作はアメリカなどでは公開中で、Rotten Tomatoesだと批評家は59%、一般層は82%となっていて、批評家層はやや厳しめで、一般層からは好評のようです。(評価はすべて2021年8月4日時点)
また、本作を考える上で押さえておきたいのは、監督がジャスティン・リンに戻っている点です。
ジャスティン・リンは、第3作目と(シリーズを復活させた)第4作目~第6作目を監督していて、本作で復帰し、ラストの前・後編の2本も手掛ける予定なのです。
本作での“かく乱要因”としては、ドウェイン・ジョンソンが登場しない、ということでしょうか。
これは真偽不明なため断言はできませんが、ヴィン・ディーゼルとドウェイン・ジョンソンがケンカをしているらしく、そのため、スピンオフの「ワイルド・スピード スーパーコンボ」が作られ2019年に公開されています。
ちなみに、このスピンオフの日本での興行収入は30.6億円でした。
以上の要素を踏まえて考えると、本作は興行収入30億円は十分に狙えるはずです。
新型コロナウイルスや、ケンカ(?)によるスピンオフなどがなく、スムーズに第9作目となる本作が作られていたのなら、右肩上がりだったため興行収入40億円台もあり得たのかもしれません。
なお、第8作目は、名作・第7作目の特殊要因によるもの、と捉えると、第6作目でようやく興行収入20億円に達したので、「本来的なポテンシャルは20億円台」と考えることも可能です。
とは言え、スピンオフでさえ興行収入30億円に行けたのですから、やはりまずは興行収入30億円が目標興行収入だと思われます。
シリーズ物で流れが途切れてしまった点と、「車社会の地方でも強いシリーズ」ですが新型コロナウイルスの再拡大により「本シリーズで人気の高いレイトショー」がどんどん減っている点は気になるマイナス要素です。
いずれにしても今年の現時点でハリウッド映画は、まだ興行収入20億円を突破できていないので、日本でも人気のある本シリーズ作が3連休とお盆期間を使ってジェット級のスタートをきれるのか大いに注目されます。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono