コラム:人間食べ食べカエル テラー小屋 - 第43回

2022年12月9日更新

人間食べ食べカエル テラー小屋

一つの国がもたらす恐ろしい波状効果。一人の男が放つ情熱。どちらも食い応えがある2作

12月9日(金)~12月18日(日)に、シネマ映画.comで先行配信
12月9日(金)~12月18日(日)に、シネマ映画.comで先行配信

インド映画やアジア映画を中心に独自のラインナップを取り揃えるオンライン配信サービス「JAIHO」と、エイガ・ドット・コムが運営する「シネマ映画.com」がコラボ。その企画の中で、日本初公開のドキュメンタリー2作品が独占配信される。私は先行で鑑賞したのだが、いずれも見応えのある作品だった。今回はこちら2作品の魅力を紹介していきたい。

「ジャマル・カショギ殺害事件 真犯人は逮捕されない」
「ジャマル・カショギ殺害事件 真犯人は逮捕されない」

最初に紹介するのは「ジャマル・カショギ殺害事件 真犯人は逮捕されない」だ。自転車ロードレースにおけるドーピング疑惑の検証をきっかけに、ロシアという国全体が内包する闇が明らかになるという内容の作品「イカロス」が与えた衝撃は記憶に新しい。これを手掛けたブライアン・フォーゲルが放つ新作ドキュメンタリーである。今回、ブライアンがターゲットにした国はサウジアラビアだ。2018年、トルコ・イスタンブールのサウジ領事館を訪れた記者のジャマル・カショギが行方不明となった。その後の調査で、なんと彼は領事館内で何者かに殺害されたことが判明する。この衝撃的な事件の裏側を暴いていくとともに、サウジアラビア政府が国民に強いる圧政問題や、それを取り巻く国々の実情までも詳細に映し出していく。「イカロス」で感じた「マジか……」という思いが本作でも沸いてくる。

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サウジでは、反政府的な態度を取る者を徹底的に厳しく取り締まる傾向が強まっている。捕まった場合は、最悪死刑にすらなりえる。また、国民の特徴としてTwitterの高い利用率が挙げられる。劇中の説明によると、10人に8人もの国民がTwitterのアカウントを所有しているという。この2つの要因が重なるとどうなるか。圧倒的な情報統制と弾圧が実現してしまうのだ。

政府は基本的に国内のTwitter利用者情報を把握しており、反政府的な投稿をしようものなら即特定されてしまう。また、政府が大量のアカウントを運用し、体制に好意的な内容を無数に投稿しまくることで、世論すらも容易に操作する。暴走した権力を誰も止めることが出来ず、やがてそれが人の命を奪う事態へと発展するのだ。

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領事館殺害事件は概要くらいしか知らなかったし、Twitter戦争なんかも本作で初めて知った。それでも息を呑むほど引き込まれた。やはりこの監督は複雑な情勢を整理しつつインパクトを与える語り口が非常に巧い。ちなみに今年の11月には、この事件がらみでむなしいニュースも出ていた。これによって図らずもサブタイトルを回収してしまった。

続いて紹介するのは、先ほどとは真逆の非常にパーソナルなドキュメンタリーだ。役者デヴィッド・アークエットに密着した「デヴィッド・アークエットは殺せない」である。デヴィッドは「スクリーム」のへっぽこ警官役といえば「あの人ね!」となる方も多いのでは。

「デヴィッド・アークエットは殺せない!」
「デヴィッド・アークエットは殺せない!」

個人的には、彼は超絶傑作「スパイダー・パニック!」で演じたへなちょこ帰省男のイメージが強い。いずれにせよ、情けない役をやらせたらピカイチだ。そんな彼には役者以外のもう一つの顔がある。プロレスラーだ。2000年製作の映画「ヘッド・ロック GO!GO!アメリカン・プロレス」のプロモーションの一環で彼はリングに上がり、WCW世界ヘビー級王者となった。当然これはあらかじめ決められた筋書き通りで、あくまでも注目を集めるためのものだが、ファン並びにレスラーから大ヒンシュクを買い、失敗に終わった。WCWの人気も低迷し、デヴィッド自身も役者仕事が激減する最悪の事態となった。

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ここまでの辛い道のりを振り返ってからが本作の本番だ。デヴィッド(というかプロデューサー)は大いにやらかしてしまったが、彼自身は本当にプロレスを心から愛していた。中年に差し掛かり、体にもいろいろな負荷がかかる。でも彼はカメラに向かって思いをぶちまける。「俺はレスリングが好きだった。それにチャレンジできるのがうれしかった。でも実際は罵詈雑言を浴びた。俺はレスリングの汚名になりたくない、この汚名をそそぎたい。そして、レスリングの名誉を回復したい!!」

そして彼はプロのトレーナーの下でトレーニングを積み、今度は自分の力でリングに上がろうとチャレンジを開始するのだ。まさか、こんな真っ直ぐなスポ根モノだとは思わなかった……。これは、デヴィッドの悲哀と熱く迸るレスリング愛がさく裂する激熱のドキュメンタリーだ。そこにへなちょこな面影は一切ない。漢、デヴィッド・アークエットの雄姿に震える。本作を鑑賞すれば彼を見る目が変わるはず。最後のほうは、少し目に涙が浮かんでしまった。

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今回紹介した作品は、それぞれ方向性は異なるが、いずれも非常に心に刺さる作品だった。一つの国がもたらす恐ろしい波状効果。一人の男が放つ情熱。どちらも食い応えがある。2作とも、今のところは他ではお目にかかれない貴重な作品だ。ぜひ、この機会に鑑賞をおすすめします!

「ジャマル・カショギ殺害事件 真犯人は逮捕されない」ならびに「デヴィッド・アークエットは殺せない!」は、シネマ映画.comで、2022年12月9日(金)~2022年12月18日(日)にどこよりも早く先行配信! この機会をお見逃しなく!!

シネマ映画.comは、映画.comが選りすぐった話題の最新作から新作、時代を超えた名作をお楽しみいただけるオンライン上の映画館です。自宅にいながら映画をお手軽に鑑賞いただけますので、ぜひお気軽にご利用ください。

筆者紹介

人間食べ食べカエルのコラム

人間食べ食べカエル(にんげんたべたべかえる)。人間食べ食べカエルです。X(旧Twitter)で人喰いツイッタラーをやっています。ID @TABECHAUYOで検索してみてください。WEBや誌面で不定期に寄稿をするほか、新作へのコメントなどを書いています。好きなジャンルはホラーとアクションで、特にモンスターに人が食べられるタイプの映画に目がありません。「ザ・グリード」に出てくる怪物を目指して日々精進しています。どうぞよろしくお願いします。

Twitter:@TABECHAUYO

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