コラム:人間食べ食べカエル テラー小屋 - 第36回
2022年1月28日更新
「元カノ 憑き纏う女」質・量ともに文句が無い恐怖描写。タイホラー三銃士の1本。
女好きで有名な俳優ケンは、いろいろな女性と遊んでは振っていた。そんな彼も、ある女優と交際を始めたことで、真剣に結婚を考えるようになる。だがある日を境に、ケンの周囲で不可解な死亡事件が次々と発生。彼は次第に精神的に追い詰められていく。これは、かつて捨てた元カノの怨念が引き起こしたものであった。だが彼は元カノが多すぎて誰の仕業なのか分からない。そうこうするうちに更なる恐ろしい事態が発生する……。
タイでは、パン・ブラザーズの「the EYE アイ」がヒットしたこともあり、一時期心霊ホラーが量産されていた。その多くに共通する特徴として「因果応報」という要素がある。タイホラーの心霊現象は、結構な割合で主人公に原因がある。「呪怨」みたいに理不尽に怪異に巻き込まれて地獄を見るというストーリーは、ほとんど見たことが無い。もう一つのタイを代表する名作ホラー「心霊写真」もまさに因果応報のド真ん中を行く内容だ。
そして本作「元カノ 憑き纏う女」にも、その要素がしっかりと入っている。あらすじを読んで分かる通り、本作の主人公は言い訳のしようがないほどのクズである。彼が体験する恐怖も自業自得という言葉が相応しい。かつて捨てた元カノが怨霊となって復讐にやってくるという、どう考えても同情ができない展開。こんな設定なら、怖がるどころか霊を応援するよ!と思う人も多いだろう。だが、そんな設定を込みにしても、観る者をきっちり震え上がらせてくれるから本作は凄い。
本作の恐怖描写は、質・量ともに文句が無い。序盤のある衝撃シーンを境に、主人公ケンを心霊現象が襲い始めるのだが、その頻度がえげつない。3~5分おきくらいのペースで霊が表れては脅かしてくるのだ。ある時は背後に、ある時はテレビの反射に、またある時は真正面から現れる。いっぱい出てくるけど同じ手はほぼ使わない。手を変え品を変え、多彩な恐怖演出を繰り出してくる。心霊現象の見本市だ。キーアイテムとなる心霊写真も、霊の写り方がメチャクチャ怖い。心霊写真を扱わせたらタイ映画の右に出る者はいないのでは。
ホラークリエイターは本作を参考にすれば、しばらくアイデアに困らないと思う。本当に様々な心霊演出が盛り込まれているので。あと、霊のメイクも素晴らしい。怨念フルスロットルの形相で、チラ見せはもちろんのこと、出ずっぱりでも恐怖度が薄れない。この顔を生み出した時点で勝ちだ。普通、見せすぎたら怖さが薄れるものだが、本作の場合は見せすぎても怖いのだから無敵である。また、霊に襲われた人は悲惨な死を遂げるのだが、その死体の凄まじい損壊っぷりも特筆したい点だ。ここぞというところで、本気のゴアシーンを見せつける。主人公だけでなく、その周囲にも一切容赦のない恨みと死を振りまく怨霊の姿をこれでもかと描くことで、主人公のドクズ具合を上回る恐怖を植え付けてくれるのだ。
また、恐怖描写だけでなく、ストーリーの完成度が高い点も本作の強みだ。個人的にホラーにあると嬉しいミステリー要素も含まれている。元カノの恨みなのは間違いないが、付き合っていた相手が多くて誰か絞れないという最悪のミステリー展開には流石に笑ってしまった。あの元カノかと思いきやこっちか!?という元カノミスリーディングで観る者を惑わす。話は二転三転するが、主人公がクズなのは一貫しているので、テーマは最後までブレない。数々の心霊現象と死亡者を出した果てに待ち受けるラストも見事だ。
タイホラーは当たり映画が多いが、本作はその中でも上位に来ると思う。霊の見せ方もドラマ性も優れており、鑑賞後の満足度は高い。とりあえず「the EYE アイ」「心霊写真」と本作を観ておけば間違いないだろう。これが私の選ぶタイホラー三銃士だ。ちなみに本作には、監督は一緒でストーリーに繋がりのない「元カノ Death」という続編も存在する。冗談みたいな邦題になってしまっているが、こちらもまあまあ怖いので、本作を気に入った方は観てもいいかもしれない。
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筆者紹介
人間食べ食べカエル(にんげんたべたべかえる)。人間食べ食べカエルです。X(旧Twitter)で人喰いツイッタラーをやっています。ID @TABECHAUYOで検索してみてください。WEBや誌面で不定期に寄稿をするほか、新作へのコメントなどを書いています。好きなジャンルはホラーとアクションで、特にモンスターに人が食べられるタイプの映画に目がありません。「ザ・グリード」に出てくる怪物を目指して日々精進しています。どうぞよろしくお願いします。
Twitter:@TABECHAUYO