コラム:韓国の人がぶっちゃける、made in KOREA - 第5回
2011年5月30日更新
謙虚な日本人だって、たまには「崖っぷちドラマ」の主人公でもいいじゃない
韓国ドラマ史上、これほどまでに国民から期待されずに始まった作品があったでしょうか。「製パン王キムタック」という幼稚な響きのタイトル、初主演を務めるユン・シユンはファン層の薄い新人、スター級俳優の不在。そして裏番組では、ワールドカップ中継と、“韓国のキムタク”と言われる人気俳優キム・ナムギルの新ドラマが控えていました。こんな状況下で、韓国KBSからも「捨て駒」とささやかれた「キムタック」が、2010年の韓国ドラマの最高視聴率50.8%を叩き出すと誰が予想できたでしょうか。
もちろん、裏番組のドラマが正常放送できなかった点や、テレビ局の猛プッシュも高視聴率の大きな要因として考えられます。しかし局がどれだけ猛プッシュしたところで、チャンネルの主導権を握る主婦層の心をつかむのは簡単なことではないでしょう。
キーポイントは、いつからか韓国でドラマの重要なカテゴリーとなっている「マクチャン」です。日本語で言うならば、「崖っぷち」「最低級」という意味のこの言葉。不倫、復しゅう、痴情のもつれ、殺人、裏切り、禁断の恋などが、ふんだんに盛り込まれた「崖っぷちドラマ」というジャンルを掲げるだけでも、高視聴率は約束されているといっても過言ではないでしょう。
「製パン王」というタイトルから、「美味しんぼ」のような内容のおいしいパンを追求するドラマかと思っていたのですが、フタを開けてみれば「崖っぷちドラマ」だったのでどれだけ驚いたことか。さらに、一見現代劇ではあるものの、登場から成長までの過程を分析すると、時代劇のような流れを持っているのです。
ドラマの視聴率を握っている韓国の20~30代女性や主婦層は、悪をこらしめる勧善懲悪な時代劇の流れが大好きです。「マクチャン」から始まり、視聴者が応援、感情移入するにつれて成長し悪をこらしめていく過程は彼女たちを満足させるに十分だったはずです。日本をハッとさせる韓国ドラマの魅力は、ここにあるのではないかと思います。最近の日本のドラマは、イイ感じの悪役がだんだん憎めないキャラクターになっていったり、実はイイヤツだったというオチが多いのではないでしょうか。
あまり感情をあらわにせず人に迷惑をかけない、という文化を持つ日本人から見て、怒り、悔しさ、憎しみを心のままに熱く叫ぶ韓国ドラマのキャラクターはどう映るでしょうか。ただの子どもに見えるかもしれません。わがままなだけかもしれません。しかし、迷惑をかけたくないという一心で、不条理をただ我慢するのではなく、生い立ちや環境を泣き叫んででもイヤなものはイヤなのだと必死に主張し、夢と人生のために熱く生き抜くタックのような「崖っぷち主人公キャラ」の元気な姿と成長が、今という大変な時期を生きる日本においても、ひとつの勇気につながるのでは、と思います。