コラム:若林ゆり 舞台.com - 第81回
2019年8月6日更新
これまでの日本版上演ではライブ形式をリアルに追求した演出もあったが、今回、ニューヨークの劇場で演出経験もある演出家・福山桜子は、より演劇的なアプローチを考えている模様。
「今回の上演に関して桜子さんと話しているのは、三上博史さんが演じられた日本初演に近い、オーソドックスなヘドウィグを演劇的に作ろう、少し原点に戻そう、と。それに、オリジナルのジョン・キャメロン・ミッチェルさんがやったように、最後のトミーのパートを僕が演じる形になるかもしれない」
トミーはヘドウィグから愛されながらも「1インチ」を拒絶し、彼の曲を盗んでスターになった、“失われた純真さ”の象徴のような役。浦井のイメージからすると、「ヘドウィグより断然こっち」と言われそうな美少年キャラだ。
「まあ、そう思いますよね(笑)。でも、ヘドウィグのカタワレがトミーだとしたら、トミーのように見える僕もヘドウィグなんだということにならないかな。僕はヘドウィグ=トミーだと思うし、=ハンセル少年だとも思う。そこを突き詰めたら、今回のヘドウィグが出来上がると思うんです」
今回、浦井にとって大きな助けとなるのは、ヘドウィグのバンド仲間で2番目の夫であるイツァーク役(女性が演じることが多い)を、バンド「女王蜂」のアヴちゃんが演じること。
「アヴちゃんは“日本のヘドウィグ”と言われていて、『アヴちゃんがヘドウィグやればいいじゃない』という意見もあるくらい(笑)。でも、そんな方が横にいてくれるので、僕としては“鬼にチェーンソー”(笑)。完璧なお手本がいるから、心強いんです。演出の桜子さんは『浦井くんがやるからこその、演劇的な力を信じたい。繊細なヘドウィグが作れると信じている』と言ってくださって。期待には応えたいですし、期待以上のところに着地できたらと思います。怒りの部分は歌で表現できれば。グラムロックは挑戦です。でも、生演奏だしバンドにはすごい方が揃っているので、そういうところにも攻撃性は出てくると思うんです」
イメージにとらわれず、幅広い役柄に挑戦しつづける浦井。この後、11月には「ビッグ・フィッシュ」の再演もあり、17年の初演からどう成長したかを見られるのも楽しみだ。俳優としての理想を「つねに鮮度のある役者でいること」と言う彼は、それが誠実さにもつながると考えている。
「作品の度に『また違う顔をしているね』と言われる役者でありたいし、それには、いただいた仕事を徹底的に大切にして『浦井にこれをやらせたい』と思ってくださる人の気持ちをしっかりと汲み取り、毎回そう思っていただくことが大事だと思っています。俳優という仕事は“数珠つなぎ”という言葉通り、人とのつながり、仕事のつながりで成り立っているもの。だから誠意をもって仕事をしたいんです。僕の変化を『楽しみだ』というお客様の声は、10年後、20年後を見越してくださる言葉。ありがたいと思います。お客様にはチャレンジを楽しんでいただいて、僕自身、変化を続けながら、盛り上がっていくエンタテインメントの世界の一員でいられたら最高ですね」
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」は、8月31日〜9月8日に東京・EX THEATER ROPPONGIで上演される。以後、福岡、名古屋、大阪、東京FINAL公演が予定されており、詳しい情報は公式サイト(https://www.hedwig2019.jp)で確認できる。
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka