コラム:若林ゆり 舞台.com - 第58回
2017年7月27日更新
第58回:「ファインディング ネバーランド」で自分自身を見つけたブロードウェイの新星!
子どもたちと演技をしながら、自分自身が子どもだったころの思い出がよみがえることもよくあるそう。
「いちばん思い出すのは、少年時代の僕と弟との関係だね。僕には弟が2人いるんだけど、末の弟はすごく年が離れているから、すぐ下の弟と遊んだ時間のことだ。子ども時代にとって、何が大切だったか。大切なのは僕たちが一緒に世界を作り上げていたということ、絆を築き上げていたということなんだ。舞台で子どもたちが遊んでいるのを見ていると、イマジネーションの魔法を僕も持っていたんだと実感できる。それはすごく美しいものだと思うね」
ビリーは1985年にドイツで生まれ、アメリカのニュージャージー州で育った。
「両親が転勤が多くて引っ越してばかりいたんだけど、僕は行く先々で必ず教会の合唱団に入って歌っていたんだ。でも10歳から15歳くらいのときは自分にとって難しい時期で、友だちもいなかったしどこにも居場所がないような気がしていた。自分に合うな、これをやるとしっくりくるなと思えるものに全然出会えなくて。でも13歳のとき、合唱の先生が僕に『演劇科のある高校へ行ってみたらどうかな』って勧めてくれてね。誰かが自分に特別な関心を持ってくれたことも初めてだったし、すごく嬉しかったよ。そして、高校に入ってすべてが変わったんだ」
高校の授業でダンスや演技、歌のトレーニングをしたビリーは、「ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート」で初めて舞台を踏む。そのとき初めて、「自分がどういうところに属するどんな人間なのか、わかった気がした」という。
「それこそが、僕が俳優をやりたいと思ったいちばんの理由。どんなことをしても自信を持てなかった僕が、これなら自分らしくできる、ここなら必要としてもらえる、と思えたんだ。舞台に立って演技をすることが好きだと思えた」
その後、シンシナティ大学でもさらに演技を学び、卒業後にニューヨークに出てオーディションを受けまくった。
「ブロードウェイ・ミュージカルでは『ダーティ・ダンシング』や『ウィキッド』、『ラ・カージュ・オ・フォール』、『ピピン』に出演し、ロンドンとブロードウェイで『ブック・オブ・モルモン』のエルダー・ケヴィン・プライス役も演じた。そして、この『ファインディング・ネバーランド』。これは僕に、自分がいかにこの仕事を愛しているかってことを改めて認識させてくれた作品だよ」
なぜ、ビリーはこの仕事をそんなにも愛しているのか?
「演劇が、僕に見失っていた自分自身を発見させてくれたからさ。『ファインディング・ネバーランド』で僕はバリを演じているんだけど、まさにバリも、自分がどういうふうにいればいいのかわからなくなってしまった人間。制約ばかりだった当時の世界ではかなりラジカルなことを考えているんだけど、そんな自分を抑えつけている。でも、彼は子どもたちのおかげで気づくんだ、『抑えつけることが大人になることじゃない』ってね。これは、バリが人としてどうあるべきかを自問しながら、それを見いだして成長していく物語。僕自身もまだまだ自分探しをしている最中だから。そこがすごく重なるんだよね」
この作品は、俳優としてのみならず、ビリーという人間にも大きな影響をいまも与えている。
「この作品は僕にとって、鏡のようなものだ。俳優としてこの世界でキャリアばかりを追うようになってしまってはいけない、と僕に警告を与え、情熱をもって役に向き合うように導いてくれるんだ。だから僕は公演ごとに心を奮い立たせ、楽しみ、同時に恐れを感じながらバリを演じることができる。演じる上で非常に美しい役だ。でもそれ以上に、僕に自分の成長を感じさせてくれて、自分というものをより深く理解させてくれる。とてつもなく大きな意味のある役だと思っているよ」
「ファインディング・ネバーランド」は9月8~24日、東急シアターオーブで上演される。
詳しい情報は公式サイトへ。
http://findingneverland.jp
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka