コラム:若林ゆり 舞台.com - 第16回
2014年10月7日更新
第16回:たった50席の小劇場で熱い男たちが心をわしづかみにする「六悪党」は幕末版「レザボア・ドッグス」なのだ!
その間に、土佐勤王党士を大河ドラマ「龍馬伝」で経験(島村衛吉役)していたのも何かの縁か。しかしなぜ、男だけの芝居をやりたいと思ったのだろう?
「僕が男好きだからかな?(笑) いや、僕は女性大好きですよ!(汗) でも、男同士の友情に憧れがあるのかもしれない。この作品にあるような友情や信頼関係って、いまの時代じゃなかなかないですよね。だから、男が見て男が憧れるようなものをやりたかったんです。たとえば、今回も元劇団仲間の2人(陽永と杉浦一輝)と一緒にやっていますけど、プライベートでもしょっちゅう会って話すような仲ではないですし。ただ、どういう芝居をするかはよくわかっているし、芝居に関してはすごく信頼しています」
山﨑にとっての憧れは、18年前に結城敬介という役を演じた千葉哲也その人かもしれない。チラシでは山﨑が演出、千葉は演出監修ということになっているが、「120%、千葉さんの演出で間違いない(笑)」という。結城は尊皇攘夷を掲げる血気盛んなほかの志士たちと違い、天才的な剣術の腕を持ちながら、藩にも改革にも出世にも興味がない。自分の腕だけが頼りの無頼漢だが、危機にある仲間を放ってはおけないやさしい面がある。今回山﨑は、自分でこの役を選んだ。
「群れない人間である結城に、美学を感じたんでしょうね。8年前からやりたかった。いやでも、どの役も主役ですし、魅力的だと本当に思います。ただ、演出は千葉さんが引き受けてくれて本当に助かりました。すごく芝居が好きで、すごく役者を愛してくれる方なんですよ。僕は人間として尊敬していますし、千葉さんに演出していただくと結果が出せて、すごく褒めてもらえるという意味でも信頼しています。ご自分も役者だから、よく芝居をやってみせてくださるんですが、それが正解だというのではなくて、模索しながらやっていく感じかな。うまくできなくても待ってくださる。それでいろいろやってみて、結局、1周してもとに戻ったりもする。でも、1周していろいろな経験をしてから戻ったのは最初のとは絶対に違う、そこにいろいろな感情がこもっているから、というのが千葉さんの考えなんです。人間って1つじゃない、矛盾するから面白いんだって」
なるほど、ここに描かれているのは矛盾だらけ、それでも自分の信じた道を命懸けで突き進む男たちの姿だ。これを「お客様に『レザボア・ドッグス』よりカッコイイと言わせたい」と山﨑は言う。この舞台、伝説になりそうだ。
「最初は手強い台本だと思いました。時間軸が飛んだり、時代背景がわからないと理解できないところもあるし。でも、これってものすごく濃密な会話劇で、その部分がいちばん強いんですよ。だからしっかりと、勢いに任せず熱のこもった会話劇として見せたいと思っていたんです。お客様の中には、『映画を見ているみたい』とおっしゃる方もいました。客席が近いから、自分でフォーカスしながら見る感覚がカメラみたいだとかで(笑)。それに、『レザボア』はギャングで拳銃の話ですけど、『六悪党』は志士で刀ですから! 共感度が高いし、刀の重さは生命の重さそのもの。チャンバラではない迫真の殺陣は、銃撃戦よりカッコイイと思うんです。何が正しくて何が悪なのかわからない時代。観終わったお客様がこの題名に疑問を感じてくださるよう、熱く生きたいと思います!」
トライヲンズ プロデュース公演Vol.1「六悪党」は10月13日まで、下高井戸HTSで上演中(火曜日休演、当日券あり)。詳しくはCoRich内の公演サイトへ。
http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_id=57180
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka