コラム:若林ゆり 舞台.com - 第130回

2025年5月12日更新

若林ゆり 舞台.com

劇団☆新感線「紅鬼物語」の鬼役で、宝塚の男役から女優へ。進化&変化で魅せる柚香光と鈴木拡樹が響き合う!

柚香光が美しき鬼・紅子役、鈴木拡樹が紅子との哀しい愛を紡いでいく夫・源蒼役
柚香光が美しき鬼・紅子役、鈴木拡樹が紅子との哀しい愛を紡いでいく夫・源蒼役

圧倒的なパワーとパッション、ド派手なアクションにユーモア、匂い立つような物語世界と娯楽の限りを尽くし、観客を魅了する劇団☆新感線。劇団が記念すべき45周年を迎えるこの2025年、記念イヤーの先陣を飾る作品は、いままでとは少し毛色の違う新機軸だ。演出家・いのうえひでのりによれば、これまで度々「鬼」を扱ってはきたものの、「『昔々あるところに……』から始まるようなお伽噺をベースに『鬼』の存在を掘り下げる物語は意外とやっていなかった」。

そこで、いのうえの要望を受けて「以前から鬼の物語を書きたかった」青木豪が平安の世を舞台に、伝承譚スタイルの脚本を執筆。主演の美しき鬼・紅子役に、宝塚を卒業して約1年の元花組超人気トップスター・柚香光を迎えて贈るのが“いのうえ歌舞伎【譚】Retrospective”「紅鬼物語(あかおにものがたり)」なのである。さらに共演者には、それぞれ異なる背景と実力をもつキャストを招集。突然消えた妻・紅子を探す旅に出て、紅子との哀しい愛を紡いでいく夫・源蒼(みなもとのあお)役は、舞台「刀剣乱舞」シリーズなどさまざまな舞台作品で活躍している鈴木拡樹が務める。

今回は、初挑戦だらけのなか意欲に燃える柚香と、その夫役で、新感線は2019年の「髑髏城の七人 Season月《下弦の月》」以来2度目となる鈴木に話を聞いた。

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2024年の5月に宝塚を退団し、この1年でダンスをメインにしたコンサートと、パリ・オペラ座のエトワール、マチュー・ガニオとの創作バレエ共演など、ダンスをフィーチャーした作品に挑んできた柚香。身体能力の高さには定評のある彼女だが、宝塚を出てから芝居に取り組むのは初めて。これが「女優デビュー作」となる。

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柚香「劇団☆新感線の舞台はずっと大好きでした。宝塚を退団して以来、新しい自分の発見は私にとってつねに課題ですが、本当の意味で新しい自分に出会うのは『この新感線からなんじゃないかな、もっといろいろなことが見えてくるのかな』とワクワク、ドキドキしています。女性としてのパフォーマンスはコンサートが第一歩で、役ではなく『柚香光』として出る、踊る、歌うというのが自分としてはすごく新鮮でした。自分から特に『やろう』と意識していないところで自然と湧き上がってくる感情や感覚が、自分に驚きだったり、初めての気づきだったりをもたらしてくれたんですね」

柚香「そこに加えて、今度は初めて、宝塚歌劇団生ではない方と共演するお芝居。しかも演じるのは妻であり母親。娘時代のシーンもありながら、さらに『鬼』であるということで、どんな自分に出会えるのか。初めて尽くしのなかで、きっと自分の知らない面がいっぱいいっぱい出てくるんだろうなと思います。鈴木さん……じゃなかった、拡樹くん(距離を縮めるため『拡樹くん』『光ちゃん』と呼び合おうと決めていたんですが、まだ慣れなくて)とお芝居するなかで、そしていのうえさんや共演者のみなさんから引き出していただいて、自分も予期しなかった新しい自分に出会えるんじゃないかと胸が高鳴っています」

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一方の鈴木も、実は「それまでとはまったく違った環境」に身を置いた経験がある。

鈴木「もともと別の分野の専門学校に入ったのですが、自分が本当に興味をもっているものは何なんだろうと考えているとき、演劇と出合ってしまって。「オレノカタワレ」という作品を観劇したんですけど、衝撃でした。『なんだこれは、こんなに面白いものがあるのか!』と思って、演劇の世界に飛び込んだんです。それからは必死でしたね。その作品もアクションがあって、生の舞台の迫力、熱気がすごかった」

鈴木「そのとき初めて『こんなものを自分もやってみたい』と思ったからこそ、同じ熱量のある作品に、いま自分が取り組めていることがうれしいんです。僕が舞台にこだわっているのは、この世界に入るきっかけが映画やドラマではなく生の舞台で、それが原点だから。劇団演劇が好きなんですよ」

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それぞれの、互いに対する印象は?

柚香「作品のビジュアル撮影のときにお目にかかったのが初めてだったんですけど『お優しそうな方だな』と。ご挨拶させていただいた時の空気感とか雰囲気、表情などが本当に『ああ、やっぱりお優しそうな方だなあ」というのを、しみじみ感じました」

鈴木「僕は、最初にもった印象とはもう変わってきているんですよ。最初はもっとパリッパキッとして硬い性格なのかな、と思っていたんです。でも、そうではない部分も少しずつ見えてきて。作品を作っていくうちに楽しくしゃべれそうだな、という感覚があります」

柚香「きっと『こんなやつか』と思う瞬間もたくさんあると思います。基本的に、そんなにパリッとはしていないので(笑)。そこのギャップはやはりあるかな、と」

鈴木「やはり最初は目の強さというか、目力があるので、すごく細かい方なのかなと思ったんですが、どちらかというと柔らかく接してくださる方ですね」

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まったく違った背景をもちながら、鈴木と柚香は共通する部分も多そう。柚香は宝塚で「花より男子」など2.5次元作品をいくつも経験しており、同性ばかりのカンパニーを率いる立場を経験してきたこと、観客を大切に思う心、ストイックな努力家であること、作品や演技への考え方など。たとえば役づくりのやり方を聞くと「とにかく役に関することをできる限り調べる」ことから始めるという、同じ答えが返ってきた。

鈴木「僕はまず、役について想像するための材料をとことん探しますね。そこから、どんな状況にいたのかを考える。今回はテーマとして人と鬼というものを描いていますし、夫婦だけではなく、僕たち以外のキャラクターそれぞれにも『家族』をテーマにしている部分があると思うんです。『人と鬼』というテーマに対して、それぞれが見る角度というものがあって。僕たちの役は子どものいる夫婦という関係ですが、僕は役者として、これまで夫婦関係ですら描いた経験が非常に少ないんですよ。同じ目線で作っていくこともできるのかなと思いますし、想像の中で広げていくのも楽しそうだな、と思います」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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