コラム:若林ゆり 舞台.com - 第128回
2024年12月13日更新
それにしても、この原作は日本の漫画史上においても、並び立つ例がないほど深遠で壮大な作品。人間を捕食する巨人との戦いを軸にしたダーク・ファンタジーという衝撃で始まる大胆な展開に巧妙な仕掛けが張りめぐらされ、人間性、人間力、愚かさや強さ、正義とは、道徳とは何かを問いかける。岡宮がのめり込んだのは、「思いもよらない展開で面白いのと同時に、いろいろな感情を揺さぶられるところだった」という。
「読んでいくと『ええーっ!!』の繰り返しすぎて。2周目になると『だからなのか』と腑に落ちるような伏線がたくさんちりばめられているのがわかって、『すごい作品だな』と思いました。最初は巨人対人間だった物語が、だんだんとそれだけではなく、歴史や人種、宗教や差別など、この世界と通ずるような問題提起が見えてくる。巨人が現れることは現実にはないにしても、突如、日常が奪われるということは僕らにも起こりうると思うんです。そういう時に人間としてどう行動できるかというのは、その人の本性が見える部分だとも思います。だからこそ、『自分だったら』とものすごく想像するし、いろいろな共感が生まれる」
「綺麗事だけでは言い表せない、人間の醜いところにも焦点を当てているのが、僕はこの作品のすごさだと思います。たとえば調査兵団のみんなが、巨人ではなく初めて人の命を奪う瞬間。そういう場面での諫山先生の言葉ひとつひとつが、すごく心に刺さる。誰に感情移入するかで受け止め方が変わるのもすごいところです。『進撃の巨人』ファンで観に来てくださるみなさんには、登場人物と同じように苦しくなってもらいたいし、とんでもない敵に立ち向かってほしい。エレンの言葉を借りるなら『戦え』と。勇気をもらえるような作品になってほしいです」
岡宮自身は、いちばん共感できるキャラクターはコニーなのだという。
「僕はコニーが大好きなんです。多分、僕があの世界にいたら、コニーみたいな立ち位置だと思うから。それか、ジャンみたいな感じかな。コニーの言葉、ジャンの言葉にはすごく共感できるし、全然他人事に思えない。きっと性格的に、自分はエレンではないと思うんですよ。でも、エレンのこともわかる。エレンは強い憎しみや怒りといった感情を抱えているけど、誰かのために動いている『愛の人』であることを大事にしながら演じています。僕は漫画が完結してから演じられたのが本当にありがたかったです。アニメの(声優)梶裕貴さんは、エレンの真意がわからないまま役をつくっていたんだと思うと、すごいなって。僕には難しかっただろうなと思います」
岡宮が俳優として最初のブレイクをしたのは、19年上演の「刀ミュ」ことミュージカル「刀剣乱舞」で鶴丸国永を演じたとき。少年っぽくかわいい容姿とかなりギャップのある、凛々しく澄んだ歌声が評判を呼んだ。それから「王家の紋章」で帝劇のグランド・ミュージカルに進出し、ミュージカル「ロミオ&ジュリエット」ではロミオ役に。グランド・ミュージカルに出ると2.5次元を卒業していく俳優も多いが、岡宮は「そういう住み分けはなくていい」と言う。
「2.5次元もグランド・ミュージカルも、どちらも経験してきて、それぞれの素晴らしさを知っているからこそ、僕はどちらもやっていきたいんです。どちらがいい悪いというのはなく、伝えたいメッセージがある、という意味では同じだと思っています」
2025年は帝劇が休場に入るため、明治座で上演されるフランス製グランド・ミュージカル「1789-バスティーユの恋人たち-」で4月より主役のロナンを務める。さらに8月からは新川直司氏の漫画をミュージカル化した「四月は君の嘘」にも主演。いずもピッタリの配役だと大きな期待が寄せられている。これまで順調に夢を叶えてきた岡宮が、この先、叶えたい夢とは?
「個人的には声優にも挑戦したくて、新海誠監督の作品に出るのと、ディズニー作品の声優をやるのが夢なんです。だから声を褒めてもらえるとうれしいですね。ストレート・プレイにも挑戦したいし、やはりいつかは『帝劇の0番(センター)に立ちたい』という夢を叶えたい。『1789』は帝劇で上演された作品ですし、この役で夢にまた1歩でも近づけたらいいですね。でも、それより何より、俳優としてオンリーワンでありたい。『この役は来夢にやらせたい』とか『これは来夢くんにしかできないよね』と言ってもらえるように、これからもがんばっていきたいと思います」
「進撃の巨人」-the Musical-の日本凱旋公演は12月13日~22日にTOKYO DOME CITY HALLで、25年1月11日~13日に大阪・オリックス劇場で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.shingeki-musical.com/)で確認できる。また、動画配信サービス・DMM TVでのライブ配信も決定。25年1月13日の午後1時開始の公演(全景映像版、税込2800円)、午後6時開始の公演(スイッチング映像版、税込3800円)が配信される。
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka