コラム:若林ゆり 舞台.com - 第122回
2024年3月6日更新
安蘭と浦井は2011年、「エディット・ピアフ」で恋人役として初共演。15年に「Chess The Musical」で、そして23年「キング・アーサー」では敵役として共演している。出会った頃といま、お互いの印象は?
安蘭:印象は全然変わってない。ずっと初々しいでしょう。あの頃もすごくかわいい、少年みたいな青年だなと。すでにミュージカルでは注目の若手俳優みたいな感じだったから「これからどんどん行くんだろうな」と思って遠目から見ていたんですけど、「Chess」でも印象が全然変わっていなかった。それで去年「キング・アーサー」で久々にがっつりやったときに、印象はそのままだけど「やっぱりいろんな場数を踏んできたんだな、ケンちゃんは」と思って。稽古場での振る舞いもそうだし、演技のし方もそう。やっぱりいいときだけじゃない、「酸いも甘いも」いろんなときを経験して人間が出来上がっているんだな、と思いました。
浦井:ありがたいです! 死に物狂いでやっています(笑)。トウコさんの存在は、もちろんみんなのトップスターですけど、技術面も含めて憧れの方です。誰に対してもフレンドリーな明るさと、ビシッと言うときは言いみんなを引き連れていく姉御肌な部分をもちながら、作品をちゃんと考えていくところが素晴らしい。「やっぱりオールジャンルでやっていくにはこういう器じゃないといけないんだな」というお手本だと思う。「ピアフ」のときもすごく大変な役だったのに、毎回毎回「もっとこうしたい、もっとこうやったらよくなる」ということに果敢にトライして、フックをどんどん増やしていくし。そういう姿を見て「この方は背負っているものがでかすぎる、肩こるんだろうなー」と(笑)。
安蘭:肩こるのよぉー(笑)。
今回、安蘭はテキサスから来たダイアンという女性、浦井はロサンゼルスのケビンTという会社経営者がメインの役。それぞれの役をどうとらえている?
安蘭:ダイアンはテキサス出身の、ちょっとお堅めの女性。離婚歴があって、息子も別の飛行機に乗っていたから心配していて。無事だとわかった途端に、(石川)禅さん演じるニックとの間に愛が生まれる。この話のなかではロマンス担当ですね。「新しい自分になる」というセリフがあって「ここじゃ私を誰も知らないから、なりたい自分になれる」と言うんです。私、宝塚で雪組から星組へと組替えになったとき「星組の人は私を知らないから、もう1回新しい男役作れるな」と思ったんですね。なんかそのときの自分とめちゃくちゃリンクして。それまでキザった(カッコつけてキザな魅力を打ち出す)ことなんかなかったのに、突然キザり出したりして、そこで新たに生まれ変わった感じだったから。
ダイアンはいままで生きてきた道を別に後悔はしていないけど、夫と別れて息子も独り立ちして、自分の時間になったときに「新しい何かを見つけよう」と思う。そこでまた恋をする、すごく素敵な人生。ただ、タイミングが「こんな悲惨なときに出会ってしまった、私たちは幸せだけど現実は……」みたいな。人生の表裏があって、そこがまたすごいなと。一方で、ケンちゃんと(田代)万里生くんが演じるのは、これをきっかけに終わっていくカップル。そのふたつのカップルが、対比みたいになっているのね。
浦井:偶然なんですけどトウコさんと僕の役は、ポジティブな方向性のベクトルをもつふたりなんです。いろんな人生がクロスしていくなかで「人生はいつだってやり直せるし、いつだって新しいことに出会えるんだよ」というエネルギーになっていく。僕の役、ケビンTは環境エネルギーの会社を経営していて、社会や人々のために「これから何ができるのか」と考えているんですね。そこを大事にすると、起承転結の着地点が、すごく切なくもあり、豊かになっていくんじゃないかなと思っています。トウコさんと禅さんのロマンスは、すごく初々しい(笑)。なんか青春している感じ(笑)。
安蘭:青春感出てる? 無理やり言わせた(笑)?
浦井:本当に出てますよ!
安蘭:枯れゆく人生のなかでまた見つけた、一輪の花みたいな。いくつになっても出会うんだなと、元になったドキュメンタリーを見て涙が出ました。こんなこともあるんだって、これを見た女性たちに希望を与えたいですね。
人種も立場も宗教も超えた愛と思いやりと希望の物語は、いまだからこそ観客の心に強く響くはず。
浦井:惨劇の後の5日間、途方に暮れながらみんなでどうやって支え合い、生きることを選択していったのか。いま、日本も含め心を痛めるさまざまなことが起こっているなかで、これだけ心温まるミュージカルはなかなかないし、見てくださる方たちにとって希望の星になるはず。初演のハードルは高いのですが、稽古の現場自体が温かいな、豊かだなと感じるいまなので、ぜひこの温かさを客席で体感して、楽しんでいただければうれしいです。
安蘭:日本って、やはり助け合う文化じゃないですか。絆を大事にする。奇しくもお正月に震災があったり、2日目は飛行機事故があったりして、このストーリーをミュージカルで届ける意味がいま、めちゃめちゃ生まれているなと感じているので。見た方がいい(笑)。絶対に楽しめると思うな。それに尽きます!
ブロードウェイミュージカル「カム フロム アウェイ」は3月7日~29日に東京・日生劇場で上演される。その後、4月4日~14日に大阪・SkyシアターMBSで、4月19日~21日に愛知・愛知県芸術劇場 大ホールで、4月26日~28日に福岡・久留米シティプラザで、5月3日~4日に熊本・熊本城ホール メインホールで、5月11日~12日に群馬・高崎芸術劇場 大劇場で上演の予定。詳しい情報は公式サイト(https://horipro-stage.jp/stage/comefromaway2024/)で確認できる。
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka