コラム:若林ゆり 舞台.com - 第118回
2023年9月21日更新
第118回:「レイディマクベス」で憧れの“推し”=アダム・クーパーと夢の共演を果たす、天海祐希の野望とは!?
天海祐希といえばカッコいい女性、誰もが憧れずにはいられない“ハンサム・ウーマン”の代名詞のような存在だ。その彼女が、まさかこんなにも熱くヒートアップするなんて! そう驚かされたのは2017年、アダム・クーパーが主演するミュージカル「SINGIN’ IN THE RAIN~雨に唄えば~」の制作発表記者会見で、天海が公演の“応援団長”として登壇、熱弁をふるったときのことだった。このミュージカルへの、そしてクーパーへのあふれんばかりの愛を爆発させた彼女は、フォトセッションでクーパーとのツーショットを撮影するカメラマンたちに「その写真送ってくださいよ!」と本気で頼んでいた。
それから6年。天海祐希は高揚している。舞台劇「レイディマクベス」で憧れの人、クーパーとの共演が決まったからだ。
「人生でまさかこんなことが起きるなんて思います!? 思わないでしょう。私も思いませんでしたよ。よく考えると恐ろしいこと。ご本人にお会いしてビジュアル撮影をご一緒したときでさえ『嘘っぽいな』と思ってしまって。『この方、本当にアダム・クーパーさんなんだろうか? 着ぐるみ着た方じゃないか?』と疑いましたから」
天海が初めてクーパーの舞台を見たのは、2014年の「SINGIN’ IN THE RAIN~」。
「もう感動して大泣きしましたよ。内容的にもショービジネスの裏側が題材ですので心から共感できましたし、演出もすごかった。大量の水がばーっと舞台上に降ってきて、そのすごい水溜りのなかでアダムさんが歌い踊られるんですけど、あまりに素晴らしくて。舞台上の照明を一手に、すべて自分に集中させて、それを違う形の光として客席に向かって放たれるんですよ。だってアダムさんがピッと指差したら、レーザーのように指先からビームが出ているのが見えるんですから! 客席と舞台にはかなりの距離があるんだけれども、彼の表情ひとつひとつがすごく間近に感じられるんです。『すごいすごい、こういう現象が起きるんだ』と思って、また感動しました」
「ご縁があって次の『兵士の物語』という舞台を見たときにも、また感動して泣いて。そのとき、サインをいただいたんですよ。自分からサインを求めるなんてなかなかないんですけれど、どうしてもほしいから恥を忍んで『ください』と言いました。感動の余韻で泣きながら。ちょっと引いていらっしゃいましたけどね(笑)」
そこまで憧れたクーパーと夫婦を演じる共演作は、シェイクスピアが書いた「マクベス」の登場人物であるマクベス夫人に別の光を当て、描かれなかった彼女のさまざまな面を掘り下げる意欲作。クーパーとは何度もタッグを組んでいる、ロイヤルバレエ出身のウィル・タケットが演出を担う。
「『マクベス』のなかに、マクベス夫人の背景や人生については書かれていないんです。ただ、『マクベスは王になるだろう』という魔女たちの言葉を自分のいいように解釈して、信じて、マクベスのお尻を叩いて実現させる。ひとりの人間を破滅に追い込むから、悪女とか悪妻だというふうに捉えられますよね。でも本当にそうなのか?」
「この作品の設定や概要をお聞きしたとき、『ああ、そういう視点もあるのか』と驚きました。この物語では、マクベスと夫人はお互い兵士だった過去があるんです。戦っていくことに関してものすごく精力的で、ふたりでやり遂げれば絶対何でも叶えられるという、自信と確信をもっていた間柄。結局、出産したことで不調を抱え、兵士に戻れなくなってしまったんですが、『この人には私がいて、私にはこの人がいる』という思いがあってのマクベス夫人なんです。ふたりの失敗は、恐怖心があったということなんですね。それが自分を滅ぼしていってしまう。だから本当は『悪人になりきれなかったんだよね』と思います」
「レイディマクベス」におけるマクベス夫人のなかでは、すべてが正義。愛ゆえに抱いた野望の裏に、何があったのか。
「マクベス夫人が望んでいたのは、本当に夫の王冠だったのか、自分を愛してもらうことだったのか。マクベスへの愛を通して自分を愛しているようにも思えるし、そこがうまくいかなかったのかもしれません。自分の信念、強い思いときちんと折り合いがつけられなかったような人じゃないかな。そこには想像する材料がたくさんあります」
「どういう受け取り方もできると思うんですが、だからこそ、見てくださった方が自分の状況、環境、感情にどう裏付けられて、どう感じるか。マクベスもマクベス夫人も予言を自分のいいようにしか聞かなかったように、自分がどう捉えたいかによって受け止め方は変わるし、自由です。だから、その人がいま置かれている環境とか、状況とか感情とかによって何を受け取ったのか、嫌悪でもいい、愛情でもいいですよ。尊敬でもいい。複雑で面白かったという感想でも、何でもいい。それはそのときの自分に裏付けられるものなんです。だからそのときに何を思ったか、なぜそう思ったのかを感じとって、自分と対話をしてほしいなと思いますね」
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka