コラム:若林ゆり 舞台.com - 第109回
2022年9月23日更新
今回の上演で最も大きなチェンジが、ローラ役を城田優が務めるということ。三浦とも小池とも旧知の友である城田の登板は、必然だとも思える。
「作品の鍵となるローラが城田になることで、作品もかなり印象が変わってくるでしょうね。僕は優に関しては、なんの心配も不安もないんです。彼はやってくれると思うので。プレッシャーを与えるつもりはないんですけど、『優なりの最高のローラを見せてくれるだろうな』と期待しています。明らかに違うのは、前のローラよりも遥かに高身長のローラだということ。お客さんが見たときに、チャーリーの僕と『すごい身長差だな』みたいな感じになるだろうなと。ローラっていい意味でやっぱり“怪物的”ですし、圧倒的でものすごい存在感でキラキラしていて、というようなところが強調されると思います。そういう“怪物”を目の前にしたときに、チャーリーはどうなるんだろう? そういった部分は実際に板(舞台)の上で歌ってみないとわからない部分があるので、そこは今回の楽しみです」
この作品はチャーリーとローラが互いに理解し合い、信頼を深めていく過程がそのまま物語と結びついている。小池と城田の間にもやはり、関係の深まりが感じられつつあるという。
「僕と城田は高校の同級生で20年来の友だちでもあるんですけど、これまで一度も役者として共演という機会はなかったんです。だから、新たな城田を見ているようで新鮮ですね。僕にできることは、城田ローラのサポートなんだろうなと思っています。信頼関係は、勝手ながらすごくあると思っていて。彼とは高校時代、つねに一緒にいるというわけではなかったんですけど、いまどう考えているんだろうなというのはわかる気がするんです。なんせ彼は、自称“ガラスのハートの持ち主”なので(笑)、不安でしょうがないんですよね、たぶん。それをあまり見せないで飄々としているんですが、それを見て僕は『僕だけじゃなくてみんなも頼むよ、カンパニーのみんなで支えよう』という感じ。『もっとこうした方がいい』とか、そういうことを言うつもりは一切ありません。ただ寄り添って、迷うことがあれば導いてあげたいなという気持ちでいます」
小池自身は、チャーリーという役をどうとらえている? 役と向き合うなかで、今回はどんな変化を感じているのだろうか。
「チャーリーは非常に保守的な人間でもあるんですけど、靴工場の仲間たちを家族のように思っていて、すごく温かい心の持ち主でもある。また、自分が本当に思っていることにちゃんと向き合ったことがなくて、子どもっぽい部分もあるんですね。それが窮地に立たされたときローラと出会って、まったく違う相手を受け入れることでいろいろなことを学んで、人間としてどんどん成長していく。その姿に若者のパワーみたいなものを感じて、非常に魅力的な人間だなあと僕は思っています」
「僕自身が年を重ねてきて感じるものが変わったり、もちろん城田ローラの出方によって変わる部分はもちろんあると思いますが、アプローチを変えようとは思っていないんです。『キンキーブーツ』って、海外で完璧に出来上がったものをいかに崩さずにやるかということが大事な作品でもあり、そこがオリジナル作品とは違うんですよ。役者の動きに関しても全世界共通のルールがあって、『自分の気持ちに反して、決められた動きをしなければいけない』みたいな葛藤もある。それでも、それを受け入れてやるのがこの作品なんです。その上でいかに、より説得力とクオリティの高いチャーリーをつくっていくかというのが課題であり、楽しみでもあります。それから、いまはLGBTやマイノリティに対する社会の意識も変わってきているので、セリフもちょっとマイナーチェンジした部分があって、『入ってきやすいな』と思ってもらえるんじゃないかな」
今年の5月~6月には座長を務めたステージアラウンドでのミュージカル「るろうに剣心 京都編」を成功させ、俳優としての充実ぶりを感じさせる小池。36歳とは思えないほど、風貌や表情は少年のままのかわいらしさだが、話していて感じるのは潔い「男気」や、やさしい「男っぽさ」。そのギャップも魅力だ。
「これが僕なのでギャップと言われても自分ではわからないですけど(笑)、意外と城田と並んだときも、どっちかと言うと僕の方がお兄ちゃんっぽいですね。この前まで『るろうに剣心』やコンサートで一緒だった加藤和樹さんもそう。どう見ても彼の方が年上だし見た目もすごく男らしい。でも性格的には絶対に僕の方がお兄ちゃんで、彼は弟みたいな感じなんですよ。別に僕はお兄ちゃんでいなきゃとか男らしくしようなんて意識はしてないんですけど、単純に僕が長男だからですかね。みんな楽しくやれたらいいし、みんなを優しく受け入れて、頑張ろうみたいな気持ちでいるだけです。『みなさんがハッピーだったらいいじゃん』みたいな感じで、すごい平和主義。争いごとは大嫌いという人間です」
3度目の「キンキーブーツ」は、期待値もより高くなっているだろう、と、小池は覚悟している。それでも、ひとりでも多くのお客さんに作品の素晴らしさを届けたい、楽しい気持ちになってほしいと願いつつ、稽古に励む日々だという。
「この作品で必ずメッセージを受け取ってもらわなくてはいけないとは、僕、あんまり思っていないんです。ただ楽しかっただけでもいいし、LGBTについて考えてくださっても、どう受け取るかはみなさんの自由なので。ただ、『届けたい』、その一心です。舞台を見たことがない人でも、『キンキーブーツ』は映画が好きという人が多いですよね。だとしたら、この作品はびっくりするぐらい、初めて見る舞台にぴったりだと思います。ストーリーにまったく無駄がないですし、歌もシンディ・ローパーさんが作った最高の楽曲ですし。『舞台ってこんなに心動かされてパワーをもらえるんだ、最高だな! 生で聞く歌とかお芝居ってすごいなあ』なんて思ってもらえたらいいですね。映画館で映画を見るのとはまったく違うナマモノの面白さを、是非この『キンキーブーツ』で体感してほしいと思います」
ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」は10月1日~11月3日に東京・東急シアターオーブで、11月10日~20日に大阪・オリックス劇場で上演される。詳しい情報は公式サイト(http://www.kinkyboots.jp/)で確認できる。
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka