コラム:若林ゆり 舞台.com - 第103回
2021年12月24日更新
劇中ではサイレント・コメディの場面も見ることができるが、木村自身は映画を見ても「純粋に笑うことはできなかった」という。
「それは面白くないからじゃなくて、この脚本やマック・セネットの自伝本を読んでフィルターを通しちゃったから。どうしても『これ本気で、命懸けでやってたんだ』と考えると、笑えるところでも息を飲む瞬間、という方になっちゃうんですよ。たとえば山から岩が転がってきて『うわー!』みたいなシーンで、それは本物の岩ではないんだけど、当時の技術で岩を大きくしていく過程で何十キロにもなっていて。そんなものが後ろから転がってきて、当たりでもしたら本当に死んでしまいかねないんですよ。だから、演技であって演技ではないという迫真のナチュラルさがそこにはあって。『それが当時はお客さんの笑いを誘ってたんだろうな』と冷静に考えたりしました」
木村がサイレント映画に見た「迫真のナチュラルさ」は、役者としての木村が演技に追い求め続けていることでもある。今回、“動”より“静”のキャラクターであるビリー役は、大劇場でやるミュージカルよりそれを実現しやすい役なのではないか。
「そこに関して、この作品を通して自分が行き着きたいところが見え隠れし始めたところなんです。それをいま言うと、『動かない勇気、やらない勇気、やりすぎない勇気』ということなんじゃないかな。やっぱり何かしゃべっていると、何もしないでいるのが怖くなって動くんですよね。だからそれをしない、『動かない勇気』なのかなって思っていて。もちろん場合によっては動かなきゃいけない瞬間っていうのもたくさんあるし、アクションを起こさなきゃいけないときもあって、つねにリアクションだけというわけではない。でも、『間が埋まってないな』という怖さで動いちゃうことはなくしたいんです。題材もサイレント・コメディなので、映画のなかではみんなコミカルに動いていますけど、彼らはしゃべらない勇気を取ったじゃないか(笑)。じゃあ、木村達成自身が何を取るかと言ったら『動かない勇気、やりすぎない勇気』なのかな、と」
野球少年から一転して俳優を目指し、ミュージカル「テニスの王子様」の海堂薫役でデビューした木村は、ここ数年でめざましい進歩を遂げてきた。「ウエスト・サイド・ストーリー」のリフ役が、開幕直前に公演中止となって見られなかったのは悔しいが、その後、強烈な印象を残したのが「ジャック・ザ・リッパー」のダニエル役だ。
「あれは、自分の実力以上の作品にぶち当たったときに、奥歯をガーって噛みしめながら、死ぬ気でやった結果。いま振り返ってみると『キツかったなー』って思えることしかないんです(笑)。でも、高いハードルを与えられたからこそ、ジャンプできた部分も大きかった。全部の作品でそうなんですけどね。作品ごとに、その作品に入る前と終わった後ですごくいろいろ変わっている。いろんな考えが備わって『すごい成長を遂げられたなー』と思える。だから作品が始まる前のインタビューでいろいろ言っていても『たぶん作品が終わったころには考えも変わってくると思うんですけど』って、よく付け足すんですよ(笑)。僕は、子どもでもわかるようなハッピーエンドの映画が好きな、ガキっぽい人間なんですけど、こんな自分でも『全作品で作品ごとにすごい勢いで大人への階段登っていってるな!』って自覚できますから(笑)。これからもっといろんな作品に出会って、木村達成っていう人間をもっと深く、太く、大きく見せられるようになりたいですね。ときに謙虚に、ときにはオーバーな発言をすることもありますけど(笑)」
「SLAPSTICKS」は、18年後のビリーが、過去の自分を振り返る話であり、ビリーという人間の成長物語でもある。では、もしも将来、18年後の木村達成がいまの自分を振り返るとしたら、18年後の自分にどう思ってほしい?
「いまの自分は、つねに自分の限界をたたき出していると思っています。自分の限界はもちろん決めたくないですけど、『いまできるのはこれ! いまの最大限やってます!』というのはつねに言えるところまで自分を追い込んでやっている。だから『いまのお前にはこれくらいしかできなかっただろうな』と、認めてあげられると思います、絶対に。『もっと行けよ』とは言わないですね。18年後、『行ける限界までは行った、よくやった。だからいまの俺がある』って、ちゃんと思いたい。だから、つねに本気です!」
「KERA CLOSS VOL.4『SLAPSTICKS』」は、2022年2月3日~17日に東京・日比谷シアタークリエで上演される。上記以外に21年12月25日~26日に東京・シアター1010、22年1月8日~10日に大阪・シアターBRAVA、1月14日~16日に福岡・博多座、1月28日に愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホールでも上演。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/slapsticks/)で確認できる。
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka