レオス・カラックス監督が来日! 「アネット」の色彩、音楽の後に訪れる“沈黙”を語る

2022年4月2日 11:00


「アネット」公開初日舞台挨拶でティーチインに臨んだレオス・カラックス監督
「アネット」公開初日舞台挨拶でティーチインに臨んだレオス・カラックス監督

レオス・カラックス監督が4月1日、東京・渋谷ユーロスペースで行われた「アネット」の公開初日舞台挨拶に登壇。来日を果たしたカラックス監督は、事前に観客から募集した質問に応えるティーチインに臨んだ。

35年間で発表した長編作品は6本と寡作ながら、卓越した演出力、圧倒的な美的センスによって、常に衝撃を与え続けてきたカラックス監督。第74回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した「アネット」は、「ホーリー・モーターズ」以来8年ぶりとなる新作となり、アダム・ドライバーマリオン・コティヤールが主演。カラックス監督が、初めて全編英語でミュージカルに挑んだダーク・ファンタジー・ロックオペラとなっている。

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登壇するやいなや、手に持っていた帽子をポンと床に放り投げて、観客の笑いを誘うカラックス監督。公式には9年ぶりの来日だが「共同製作として堀越謙三さんが入ってくださっているので、実は一度日本に来ています。それにマリオネットの制作者にも会いにきました」と明かす。再び訪れた“東京”については「桜が咲く季節に訪れるのは初めてだと思います。東京の面白いと思う点は、とてもエレガントな部分と、ちょっと猥雑な部分が同居しているところ。自分にとっては、そこがとても面白いんです」と語った。

スタンダップコメディアンのヘンリーを演じたドライバーについて「起用のきっかけは、テレビシリーズ『Girls ガールズ』。これを見た時に『いつか絶対にカメラで撮りたい』と思わせてくれた方です。ちょっと不思議な印象を受けて……ちょっと猿に似ている。ドライバーの中には、モンキー的なものが存在していると思うんです。小さい頃に飼っていたほど、僕は猿が大好きなんです」と告白。「企画が立ち上がった頃から合流してくれていて、8年位の付き合いになりました」と作品の根幹を成していたようだ。

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また、一流オペラ歌手・アン役のコティヤールにも触れつつ「彼らの本業は俳優です。歌うことは、彼らにとって得意な分野ではありません。大体ミュージカル映画というのは、録音をしておいて、プレイバックのような形で製作されることが多い。でも、今回の場合は、演技をする場で歌ってもらう――同時録音に挑戦してもらっています。彼らは普段と比べて、不安定な状況に立たされるわけです」と解説。「それを撮影するということに非常に興味がありました。ダンサーが演じているような、身体的な表現が上手い役者が好きなんです。今回は、演じるというよりも歌うということに挑戦している――その姿が見ていて美しいと思いました」と振り返った。

TOKYO!」の1編「メルド」や「ホーリー・モーターズ」に続き、衣装や照明に「緑色を意識的に使っているように思える。何か理由はありますか?」という質問には「好きなんだ」と端的に答えつつも「デジタル撮影に移行する前は、銀塩フィルムで撮っていましたが、フィルム撮影での緑はタブーの色なんです」と説明。「どうしても美しい色が出ない。外の撮影においては、特にそうです。少し白みがかった緑色になってしまいます。『汚れた血』は色彩豊かな作品ですが、緑色だけは避けていました。しかし『メルド』ではデジタル撮影に挑戦したんです。この手法を採用することで、非常に緑がはえます。ですので、緑をまとった主人公にしてみました。その時以来です。緑に恋をしてしまったのは」と明かしていた。

次の質問は「これまでの作品では静かなシーンが印象的。しかし『アネット』は、常に音楽が鳴り響いている。“沈黙”を入れたいという願望が生まれたことはなかったのでしょうか?」というもの。

「最初は少し不安を感じていました。本作は“全てが歌”という作品。幸いなことに、ヘンリーのスタンダップのシーンは語りもあります。それでも歌が大半を占めています。ひょっとしたら、ジュークボックスがエンドレスで鳴っているような作品になってしまうのではないかという恐怖はありました。しかし、音楽の後に訪れる“沈黙”、これが非常に美しいなと思ったんです。本当の意味でのセリフはほとんどなく、音楽と歌だらけですが、僕にとっては非常にナチュラルな感じがしました。次回作がミュージカルではなくて、セリフ劇になる場合『(以前のスタイルに)ちゃんと戻れるだろうか』と、ちょっと不安を感じています。今回があまりにも快感だったからです」

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ティーチイン終了後、劇場で作品を鑑賞していた古舘寛治(アンとヘンリーの娘アネットの出産に立ち会う医師役)が登壇。「気難しい人とお聞きしていましたが、まったくそんなことはなかったんです。すごく穏やかで、撮影というものは本来“楽しむべきものである”“創作そのものである”ということを思い出させてくれるほど楽しかったのを憶えています」と述懐すると、カラックス監督は「ここで秘密をひとつ打ち明けると、古館さんを起用した最大の理由は『一番歌が下手』だということです(笑)」と暴露していた。

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締めの挨拶を求められたカラックス監督は「Q&Aに参加した時に思うのですが、客席の中にこの映画を気に入っていない人がいるのではないかと気にしてしまう」と胸中を吐露。「いつもその人たちのことを考えています。周りが『素晴らしい作品』と言っているなかで、肩身の狭い思いをしているのではないかと。でも、ある場面において、出演者だけでなく、技術スタッフ、マリオネットを作った方、操作してくれた方……皆がパレードのように並んでいますよね。あれは私の代わりに、観客の皆さんに挨拶をしてくれているんです。私には、そういうことができないことだから。私から言えることはひとつだけ。今日は来てくださってありがとうございます。そして、グッドナイト」とメッセージをおくっていた。

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