冲方丁氏、母校・早稲田大学で小説「天地明察」の魅力を語る
2012年7月10日 19:28

[映画.com ニュース] 岡田准一、宮崎あおいが4年ぶりに共演する映画「天地明察」の原作者・冲方丁氏が7月10日、東京・早稲田大学で行われた今作のトークショーに出席。同大学に在籍していた冲方氏は、会場に集まった“後輩”学生から飛び出す質問に、熱心に答えた。
冲方氏は、今作で安井算哲(後の天文暦学者・渋川春海)の人生に焦点を当てた。小説執筆で重要となるポイントは「SFでも時代ものでも人物像、テーマをきちんととらえられるか」だと明かし、「マルドゥック・スクランブル」などSF小説から、時代小説を執筆したきっかけは「渋川春海の人生にほれ込んだ」と説明。「渋川春海が繰り返し挫折に耐えられたのはなぜか。自分がもっとも幸福だと思えることを繰り返していたからなんです。高校時代に求めていた、自分がどんな人間になるかというロールモデルと合致した」という人物像にひかれ「どんな観測をして、どんな技術で取り組んだのか、びっくりするくらい資料が残っていないので、記述を探し出して想像、推測していった」という。
作家としての姿勢を問われると「作家は知識と技術と感性、この三位一体が重要」だと持論を展開。「作家は基本的に読者に対して永遠に片思いをしているんです。どう生きたかのサンプルを見せて、『この人はこう生きた。ではあなたはどう生きていくか』ということを提示する。それが読者の受け取り方によって変わると思うし、僕自身も成長している途中」と語った。さらに、徳川光圀を題材にした新作「光圀伝」も、執筆に労力を費やしたそうで「文芸誌で20回連載したのですが、3回目くらいで後悔しました」と苦笑い。それでも「膨大な資料と技術が要求されるのと、光圀自身が文芸に達者で、天皇から手紙をもらった数少ない人のひとり。天皇からほめられたほぼ唯一の侍なんです」と目を輝かせた。
母校のステージに立った冲方氏は、これからを担う学生に向け「(自分の学生時代は)将来像がバラバラの時期だったので、自分を見つめる必要があった。社会に入っていく準備はするけれど、社会に付き合わない。いつ何が起こるかわからないから、自分の中で変わっていい部分と変わってはいけない部分を見つめ、最終的には自分自身の声に耳を傾ける。自分が幸福であるという時間を、どれだけ見つけられるか」とアドバイスした。
「天地明察」は、滝田洋二郎監督(「おくりびと」)のメガホンで、2010年第7回本屋大賞を受賞した冲方氏の小説を実写映画化。江戸時代前期を舞台に、安井算哲が20年以上の歳月をかけ、日本独自の太陰暦をつくるため奮闘する姿を描く。佐藤隆太、中井貴一、松本幸四郎らが共演している。9月15日から全国で公開。
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