劇場公開日 2023年11月10日

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「残酷すぎるが「憎しみの連鎖」を止めるための処方箋」ぼくは君たちを憎まないことにした ブログ「地政学への知性」さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5残酷すぎるが「憎しみの連鎖」を止めるための処方箋

2023年11月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

難しい

「私たちは世界中の軍隊よりも強い」「憎しみに心を支配させようとする犯人たちの試みは失敗した」「今までどおりの生活を続ける」犯人たちへの声明は、どこまでも力強く、深い悲しみを受容して生き抜く決意に満ちている。なぜ、そんなメッセージを事件から間も無く、打ちひしがれたなかで発信できたのか。この映画を見ても、原作を読んでもこんな生き方が出来る人は稀有だと言わざるを得ない。
 憎しみに屈しない生き方をする決意を持ちながら生きようとする主人公アントワーヌの姿は、まるで凶器が刺さった体で平静を保っているかのようで痛々しい。母に何が起こっているのかわからない息子の未来を憎悪で染める訳にはいかない。それでも込み上げてくる失った妻への想いとテロリストに対する感情に苛まれる姿が描かれる。愛する家族を失いながらも残された愛する家族のために生きていく決断とはこんなにも壮絶な姿なのか。
 なぜ、主人公は、事件後、早々にテロリストを憎まないという決意を持ったのか。推測するにジャーナリストでもあり作家でもある主人公であったことから、憎しみを報復として行動することが新たな憎しみや報復の萌芽になることに対して事件以前から思いをいたしていたからではないか。事件から過ぎた年月から見て、主人公はまだ子育て中で、今もこうした苦悩と戦っていることが想像される。
 やりきれない憎しみが報復として表現される。テロリストはその報復先を直接的には無関係で脆弱な市民を標的にする。「直接的に無関係」と述べるのは、テロリストの論理では必ずしも「無関係」にはならない。テロリストとして生を受ける人はいない。差別、格差、貧困、恐怖など人間としての尊厳を否定されて生きている人たちが持つ社会の不公正・理不尽さへの不満。そうした境遇にある人々にとってその理不尽な社会が敵と見做されるのであれば、その社会に生きている人たちはそれを支持している人たちに見えることだろう。すなわち敵と見做される。端的に表現すれば「敵の味方は敵」ということになる。そう考えれば誰もがテロの標的になり得るのが今の世界なのだ。
続きはブログ「地政学への知性」に掲載(もちろん無料です。)

ブログ「地政学への知性」