劇場公開日 2024年1月5日

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「言葉にならない思いを物語構造が繊細に奏でる」ミツバチと私 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0言葉にならない思いを物語構造が繊細に奏でる

2024年1月8日
PCから投稿

幼い主人公が違和感を抱えている。それはまだ本人が言葉で意思表示できるものではないが、この子は自分の小さな体で悩み、もがき続け、日常の至るところで信号を発している。大人達はそれに気づいているのかいないのか、まだきちんと正面から向き合えていない。フランスとスペインにまたがるバスク地方を舞台にした本作は、列車が国境を越える場面からして何かを隠喩しているかのよう。自分の名への抵抗、プールの会員証への嫌悪が示すように、何かをたやすく線引きするのは、ある特定の人にとって痛みを伴うものだ。もっと苦しいのは、自分の胸の内を誰も理解してくれないことかもしれない。水辺に放り込まれた聖ヨハネ像と、それを探し続ける人々がいる。本当の自分を探す主人公がいる。過去と現在、象徴と具象、さらに宗教的意味合いなども織り交ぜながら、細部が緩やかに重なっていく。そうやって見つめる、見つけるまでの洗礼的な過程が、繊細に胸を打つ。

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牛津厚信