劇場公開日 2023年1月6日

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「おとぎ話を下敷きにしつつ、その定型的世界観を打ち壊した一作。」恋のいばら yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0おとぎ話を下敷きにしつつ、その定型的世界観を打ち壊した一作。

2023年1月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

もともと良作をハイペースで作り上げてきたことに定評があった城定秀夫監督ですが、ここ最近はさらに鑑賞の機会が増しています。男女の関係のねじれやもつれを描いた作品が多いのですが、作品ごとに新たな物語世界を描きつつ、しかしどう観ても城定作品と分かってしまう一貫した作風を両立させているところはさすが。

序盤では意味の知りようのなかった複数の描写が徐々に繋がっていき、やがて予想もしなかったような人物同士の関係性が浮かび上がってくるという流れは本作もしっかり継承しています。ただ今回の主要な登場人物である主人公・桃(松本穂香)も莉子(玉城ティナ)も、また彼女たちを繋ぐ結節点の役割を果たす写真家、健太朗(渡邊圭祐)も、状況的に負の側面(邪悪な性質)をのぞかせる場面もあるんだけど、それらは決して完全なダークサイドという訳ではなく、他者とかかわる際に見せる気遣いや優しさと結びついてもいます(渡邊圭祐はこの二面性を持った人物に説得力を与える、見事な演技を見せています)。こういった、人物の位置づけを決めつけないところが、間違いなく城定監督の「優しさ」でしょう。

パンフレットで監督が語っているように、本作は香港映画『ビヨンド・アワ・ケン』(2004)のリメイク作品として企画・製作されています。オリジナルと本作を比較して観てみるとさらに面白さが増すかも知れません。

なお、作中に登場する絵本『眠り姫』は、城定監督が翻訳も行った、本作のオリジナルとのこと。これは書籍化するべきでは!?

yui