劇場公開日 2023年8月18日

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「70歳を過ぎた今でも、自らのテーマを追求し続けるクローネンバーグに畏敬の念を払わずにはいられない一作」クライムズ・オブ・ザ・フューチャー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.070歳を過ぎた今でも、自らのテーマを追求し続けるクローネンバーグに畏敬の念を払わずにはいられない一作

2023年9月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

『ヴィデオドローム』(1983)や『裸のランチ』(1991)など、「生物の変容」について独自の作風で描き続けてきたクローネンバーグ。最近は映画制作から遠ざかり、革新的な映像作家ももう引退なのか…、と思わせておいて、彼しか作り得ないような最新作を撮り上げました。未だ意気軒高な様子に、作品世界の雰囲気とは別に、ちょっとほっとしたり。

本作の物語の筋、舞台設定は、これまで彼が描き続けてきた作品の集大成かつ、より洗練度を高めた内容となっています。

本作においてクローネンバーグは、痛覚が消失した世界、という思考実験のような設定を起点として、もしそうなったら人々は、身体の内側を見たい(ある種の破壊を見たい)という欲望を抑えきれなくなるだろう、という発想に基づいて、解剖とアートの融合という、驚愕するしかない表現に結びつけます。

そして未来の器具が非常に奇妙(に見える)生物的造形をしており、身体と分かちがたく結びついたそれらの器具の動作もまた、奇妙に生物的である、という描写。先鋭的な映像作家、つまりクローネンバーグの後継は数多くいますが、やはりこの発想と描写の飛躍ぶり、そして皮膚の内側から人間を見る、という思索的探求を何十年も続けてきたという主題的厚みは、やはり彼しか出せない、と実感しました。

クローネンバーグ作品としては物語(というか設定)は比較的わかりやすい上に、映像の衝撃度もやや落ち着いていますが、それでも彼の作品に馴染みのない人には結構きつい場面も含んでいますので、可能であれば『スキャナーズ』(1981)とか『デッドゾーン』(1983)とかの、物語的に理解しやすい初期作を観て、クローネンバーグとはこういった映画を撮る人なんだ、とある程度把握してから本作を鑑賞することをおすすめ。

yui