劇場公開日 2022年1月21日

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「「フェイスブック」でも「ハッカーを追え」でもない人物描写」シルクロード.com 史上最大の闇サイト あらP★さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0「フェイスブック」でも「ハッカーを追え」でもない人物描写

2022年2月21日
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鑑賞方法:映画館

冒頭でキャプションが出る通り、史実とフィクションを織り交ぜたストーリー。史実がどうなったのか気になって、鑑賞後に調べてみたところ、以前に読んだ日本版WIRED Vol.25に掲載されたジョシュア・ベアマンの20ページに及ぶ長編記事に当たった。これが本作の原作と言っていい。既視感はあったもののどうにもピンと来なかったのは、おそらく本作の麻薬捜査官リック・ボーデンの描写が濃厚で、そこに力点が置かれていたからではないだろうか。ジョシュアの記事では、シルクロードの創設者であり本作のもう一人の主人公であるロス・ウルブリヒトと、サイバー捜査官クリス・ターペルが中心に据えられていて、麻薬捜査官カール・マーク・フォースは映画ほど強烈なキャラクターではないからだ。この辺がフィクションなのだろう。記事を読み返すまで、麻薬捜査官が汚職で逮捕された結末もフィクションだと誤解していた。
さて、サイトの創設者ロスは、リバタリアンを標榜しハッキングの知識に精通し自信満々の青年実業家、のような一般的なイメージがあって自分自身もそういう自己アピールをしているものの、実際はいくつかの事業をやってはやめ、新しく思いついた儲け方を正当化するために自由主義を唱える薄っぺらさがあるが、技術を学ぶ勉強をする努力家で、捜査の手が迫ることに怯える小心者、という描き方がされている。天才大悪党ではなく、軽薄な青年の暴走という描写だ。
一方の捜査官リックは、登場から逮捕の為なら何でもやる古いタイプの捜査官として描かれ、サイバー犯罪にアナログ手法で挑む点に主眼が据えられている。このため、ターペルの地道なサイバー捜査でどうやってサーバーのIPアドレスを特定したのか、という捜査技術的には面白い部分は全く取り上げられていない。実際にはRedditなど「表の」ネットに流出した情報を拾い集めて特定したらしい。リックが「ノブ」を名乗ってロス=DPRに接触し、殺人依頼をさせるまで追い込むなど、アナログで古い潜入捜査の方法で追い詰めていくところ、ロスの居場所を特定してログイン直後にパソコンを押収する場面など、史実にもあるポイントがきっちり押さえられていて、見応えがあった。
「フェイスブック」や「スティーブジョブズ」のようなカリスマ起業家の光と影、みたいな内容ではないし、「ハッカーを追え」のようなテック犯罪ドキュメンタリーとも一味違った、追うもの追われるもの双方の人物に焦点が当たった、なかなか面白い映画だった。
「シルクロード」自体は閉鎖されたけど、ダークウェブはまだ残っていて、違法取引などに使われている。仕組みの話なのでサイトの閉鎖みたいにはいかない。安心はできないが大型の闇取引サイトが潰された意義は大きいのだろう。
これ国内でも、なりすましハッキング事件とかコインハイブ事件とか、神奈川県警を舞台にしたドキュメンタリー風のサイバーフィクションが映画化できそうだけど、「新聞記者」みたいに、誰かやらないかな。

あらP★