劇場公開日 2023年3月10日

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「タイトルに込められた思い」有り、触れた、未来 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5タイトルに込められた思い

2023年3月12日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

今週末公開作品を確認する中でたまたま目に止まり、たまたま3/11に鑑賞してきました。馴染みの映画館では一日1回の上映で、本編上映開始時刻は14:46頃。いやでもあの日の記憶が蘇ってきました。あれから12年、もうそんなに経ったのかという思いと、それなのに町は…、人々の心は…という複雑な思いでスクリーンを見つめていました。

内容は、10年前にバンド仲間を交通事故で失った佐々木愛実と震災で家族を失った女子中学生・里見結莉を中心に、演劇にかける愛実の友達、結莉の担任でもある愛実の婚約者、ボクシングに打ち込むその兄、ガンと戦う愛実の母、酒浸りの結莉の父、家族を温かく見守る結莉の祖母など、さまざまな人が命と向き合い、生きることと向き合う姿を描く群像劇です。ただ、多くの登場人物に相関がありながらも物語的には深くリンクしないので、少々とっ散らかった印象を受けないでもないです。

本作は、東日本大震災後の町を舞台にしながらも、被災者やその家族だけを描いてないところに、大きなテーマがあるように思います。本作は復興支援ではなく、あの日をきっかけに命の大切さ、生きることのすばらしさや大変さをもう一度しっかり噛みしめようと訴えている作品なのだと思います。

交通事故、病気、自然災害、自殺など、人の命はさまざま形で失われます。一方で、人は生きるために動物の命を奪います。こう考えると、今生きている私たちは、別の命に支えられて偶然生きているだけなのかもしれません。それでも、生きていれば喜びや幸せを感じられるし、生きているだけで悲しみや苦しみを味わうこともあります。そして、ともすればそんな日常はありふれたつまらないことの連続のように感じるかもしれません。しかし、それは生きているからこそ目の前に有って触れることができる現在であり、亡くなれば触れることのできなかった未来なのです。本作のタイトルには、そんな思いが込められているのではないでしょうか。

ラストで描かれる、勇壮な太鼓の演奏をバックに、宮城の人たちに見守られて、青空を泳ぐ無数の青い鯉のぼりが印象的でした。みんなで手を取り合って力強く生きていこうと、エールを送られたような気がしました。

キャストは、桜庭ななみさん、北村有起哉さん、手塚理美さん、仙道敦子さん、杉本哲太さんとなかなかの顔ぶれです。中でも圧巻だったのは、家族の心を丸ごと受け入れる愛情あふれる祖母役の手塚理美さんと、自分の存在を否定したくなるほど悩み苦しむ結莉役の碧山さえさんで、涙を誘うすばらしい演技でした。

おじゃる