劇場公開日 2022年3月25日

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「犯罪を描く難しさ」ニトラム NITRAM 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5犯罪を描く難しさ

2022年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

犯罪者を語ることの難しさをひしひしと感じる作品だ。そして、その難しさは誰かが引き受けねばならないのだという作り手の責任感もひしひしと感じる。発達障害と思われる主人公が大量殺戮を犯す、このことだけで本作を語るのは難しい。差別的感情を抱かせずに犯人の心のあり様に迫るという難題を、挑まなければいけない。
この映画を観る時、主人公のマーティンをどのように理解すべきか。本作は、理解と共感を分けながら、注意深く鑑賞する必要がある。友人のいないマーティンの孤独、破綻した親子関係、唯一彼に救いをもたらす母親と同世代の女性ヘレンとの関係を否定されること。同情ではなく、彼を追い詰める社会の構造や常識のメカニズムを理解していかなくてはならない。社会に適応して生きることはそんなに偉いことなのか、この映画を観ているとよくわからなくなっていく。社会は実りのない場所だ、実りはないけど、みんなが生きるプラットフォームだから壊すわけにはいかない。しかし、どんな社会にも馴染めずに排斥されてしまう人はいるのでこうした暴発は社会を維持する必然として、時折発生してしまう。とてもしんどい気分になるが、直視するしかない社会の実像がここには描かれている。

杉本穂高