劇場公開日 2021年1月29日

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「編集が力業過ぎませんか??」心の傷を癒すということ 劇場版 バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0編集が力業過ぎませんか??

2021年2月15日
PCから投稿

同じNHKのドラマを映画館で公開するようにリサイズした『スパイの妻 劇場版』というのがあったが、『スパイの妻 劇場版』は、もともと2時間ドラマとして製作された1話完結作品であって、ドラマというよりテレビ映画といったところだが、今作は約3時間ある全4話のドラマを2時間に凝縮している再編集版である。

アニメの再編集版で劇場枠がとられる中で、ドラマまでやらないでもらいたいというのもあるし、本来、2時間ドラマで収めることができないから、連続ドラマとするのではないかと思うのだが、案の定、無理やりな編集感がどうしてもしてしまう。

少し話が脱線するが、最近「劇場版」というワードが乱立している気がしてならない。『劇場版・打姫オバカミーコ』『劇場版 殺意の道程』は編集版であるが、『劇場版ポルノグラファー プレイバック』『劇場版 江口拓也の俺たちだって癒されたい! 大阪の旅』は劇場用新作であったりする。編集版は「劇場版」ではなく、「劇場用編集版」としてほしい。

話を戻すと、今作の放送版は観ていないのだが、それでも「ここ大きくカットしてるな」と思わせるほどの大胆な力技編集がされていて、必要なシーンも削られている感じがしてならない。ダイジェストを観ているようで時代の流れやキャラクター達の関係性の構築が省かれてしまっていて、学生だと思っていたら、次のシーンでは医者になっていたりして、かなり違和感を感じてしまう。もし放送版もそうだとしたら酷い構成の作品なだけに、放送版ではそうでないと信じたい。

あと濱田岳は童顔ではあるけれども、流石に高校生役はもう無理ですよ…

作品自体は、在日韓国人差別から逃れるため、名前を偽ってきた子供時代から阪神大震災前後、そして自身の癌が発覚し、闘病しながら診療して息を引きとるまでを描いた安克昌の人間性が構築されて、その光が消えるまでを描いた、まさに伝記映画である。

震災で多くの命が失われ、家族や友人、恋人を亡くした者たちの心の痛みや損失感、無事でいた人たちも脳裏から離れない恐怖心は、なかなか癒えるものではないが、残された人間はこれからも生きていくしかない。廃人のように生きる気力を失ってしまったとしたら、亡くなってしまった人たちは悲しむに違いない。そんな負の連鎖を完全に断ち切ることなんて無理かもしれないけど、自分にできることをやるしかないと奮闘する安の姿は、精神科医どうこうではなく、医療従事者の鏡であるようにも感じられる中で、安自身も弱い部分が見え隠れすることで、医師であっても一人の人間であることに限りなく、医療技術や知識以前に人と人とが支え合うことの大切さを描いているようでもあった。

だからこそ、エピソードのひとつひとつが大切な作品や安の心情の変化、成長のメリハリであるように思えるだけに、編集の荒さがどうも目についてしまう。

なんだか芸能界の裏の癒着や圧力を感じないでもいられない、柄本家の長男ではあるが、父親の柄本明の分かりやすいコミック的演技に比べて、地道に俳優の道を進んでいるて、今作でも自然体で正に「普通の人」である。「普通の人」でも、むしろだからこそできることを描いているだけに、はまり役である。

バフィー吉川(Buffys Movie)