劇場公開日 2020年9月25日

「☆☆☆☆(嵌れば) ☆☆☆(嵌らなければ) (2020年)10/6...」ミッドナイトスワン 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0☆☆☆☆(嵌れば) ☆☆☆(嵌らなければ) (2020年)10/6...

2024年3月10日
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☆☆☆☆(嵌れば)

☆☆☆(嵌らなければ)

(2020年)10/6少しだけ加筆しました。(別のサイトの話ですが)

『ベニスに死す』

終盤、草彅剛が『海が見たい!』と言った瞬間に、この先の展開は『ベニスに死す』だとピンと来た。

浜辺には若い女の子。差し出す手は届きそうで届かない。その若さの輝きと憧れは、人生にリセットは効かない為に、どんなに望んでも最早手に入れる事は出来ない。

そしてこの作品は《母親》の物語でもある。

舞台に上がり娘を抱きしめる母親。
どんなに虚飾で着飾って女を演じてみたところで、本物の母親には敵わない。
だからこそ〝 彼女 〟は、本物の母親となるべく大きな決断をする。

一果を取り返すべく対決をする場面は。思わず『エイリアン2』での、シガニー・ウィーバーがマザーエイリアンとの対決場面を、ほんの少しだけ思い出した…と言ったら笑わせてしまうだろうか💦
シガニー・ウィーバーが小首を傾げ「ふっ!そんな程度なの!」…とばかりに「私こそが本物の母親なのよ!」と言った。強い意志によってもたらされた名場面の再現を、もしも狙っての演出だったならば…と。

作劇的な面を言うと、4人の白鳥が。やいのやいの言いながら始まるオープニングが、ラスト少し前に上手く繋げられなかったのは残念。
同じシチュエーションを2度繰り返す事で、前と後では状況が変わっているのは、良く用いられる演出で。この作品だと、映画が始まって直ぐに一果に会う場面。
後半では同じ場所・構図ながら〝 新しい母親 〟はその場面には居ない為に、《何かが起きた》のを観客に不安感を与え。
警察が登場する場面は2度起こり。共にお金に関するこの事件が、それぞれ弱い立場にある2人の苦悩を感じさせる。
椅子を投げるのも2度あり。最初はクラスの男の子の差別的発言に対して。2度目は、男の性の対象として見られた女の子が、1人の女として変化する瞬間を。

コンクール場面での2人の少女の立場ご入れ替わり、悲劇が起こる描写は。秀逸な場面ながら、人によってはやり過ぎに感じる人も居るかも知れない。
また、このコンクールでは。母親が登場し、娘を抱きしめながら涙を流す。
思い起こせばその前に、一果がバレエを続けられる様に、安定したお金を稼ぐ為に化粧を落とす。
昼間の仕事に出掛ける時に、一果から抱きしめて、やはり涙を流す。
(他にも色々と有った筈ですが、今は思い出せないので。思い出したら加筆・改訂するかも知れません)

最初に嵌れば星4つと記した様に。この作品が好きになった人には、この上もなく愛しい作品になるだろうし。それとは反対に。作劇的な面で、この監督の過去の作品を観ると分かる様に。
(資質に関わって来るのかも知れませんが)
トコトン下衆な人間で有ったり、暴力的な人間を、魅力的に撮る術に長けて居るとも言えるだけに。合わない人には、やはりトコトン合わないのでは?と思えて来る。
個人的にも、社会から隔絶されて生きて来た人生から見えた来る、純粋で天使の顔、、、と言った面が、的確に表現されていたのか?は、ちょっと微妙な感覚は持ちました。

俳優陣の中では草彅剛が絶賛されています。
確かに良かった事は良かったのですが、個人的には大絶賛するところまでは行かず…と言ったところ。
但し、映画本編での。一方的に押し付けられた女の子に対して、突然目覚める《母性》には。正直に言って仕舞えば、この映画には(個人的な意見として)それ程な演出に於ける説得力は伺えなかった。
でも、それを成立させていたのは。ひとえに草彅剛の演技だったなあ〜と言うのも、また明白だったと思う。

元々は、「面倒くさい子を押し付けられてしまって参ったわね〜!」との思いが強かったのに。
一果がバレエに興味を持っているのを知り。それまでの〝 厄介な子 〟との思いは一変する。

自分のやっているバレエは、他人から見ると一体どう映るのか?

余りにも遊びとおふざけが過ぎてはいないか?

男に生まれて来た事を呪っていた人生!

だからこそ、今を逃してはいけない!

そんな気持ちを抱いたとしてもおかしくは無いのだろう…と。
それを感じさせてくれたのは、間違い無く草彅剛の存在感だった。
その後に厚い化粧を落とし自らの虚飾を剥がし落とす。そんな前後の顔の演技で、観客を納得させる力があった。

一果役の服部樹咲ちゃんの不貞腐れた顔は終始なかなかのもの。
本来バレエは上手い筈なのに、バレエを始めた時の動きが、きっちりとバレエ素人の動きになっている。

一果のバレエ友達りん役の上野鈴華ちゃんのヤサグレ感は、その後の笑顔を浮かべながらの〝 悲劇的序曲 〟 と併せて忘れ難い。

そして、『喜劇 愛妻物語』も素晴らしかった水川あさみは、この作品での超絶下衆な母親役も絶品でした。

2020年10月4日 TOHOシネマズ錦糸町楽天地/スクリーン10

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松井の天井直撃ホームラン