劇場公開日 2021年1月22日

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「無料のあれ。」羊飼いと風船 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0無料のあれ。

2021年7月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

"風船"とは、それのことか。はじめ、ちょっとクスリと笑った。しかし、切実な出産事情と、女性の社会的立ち位置が明らかになるにつれ、深刻な問題であることを痛感し、笑っていられなくなった。
中国に吞み込まれてこのかたのチベットは、どんどんチベットらしさをむしり取られ、いまや中国の極貧僻地と成り果ててる。僕はおととしチベットを訪れてその現状を目にしている。そんなチベットのそのまた地方で暮らす人々が、裕福であろうはずがない。ここに出てくる羊飼いも同様だ。だから、無料のあれがないと妊娠するおそれがあり、生活は困窮するのは当然の理なのだ。だけど、そこに"転生"という神聖なお告げが現れたら、どうするのか。悩ましいよなあ、チベットで生きてきた人間としては。産むか産まぬか、この結論は、どっちに転んでも苦しみが待っているのから始末に負えない。
文成公主の像を見上げるシーンが出てくるが、国のために他国に嫁した、犠牲となる女の象徴とでもいいたいのだろう。飛んでいった風船はなんのメタファなのか?自由になりたい女性の希望なのか。チベット映画は常に、重い何かを問いかけてくる。

栗太郎