劇場公開日 2020年10月16日

  • 予告編を見る

「直向きに料理に向き合う女料理人」みをつくし料理帖 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0直向きに料理に向き合う女料理人

2022年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

楽しい

時代劇というと武士道を題材にした作品が多いが、本作は料理を題材にした作品である。登場する料理の美しさと、過酷な運命に翻弄される二人の女性の切ない生き方が心に沁み込んでくる。美しく切ない物語である。邦画らしい邦画、時代劇らしい時代劇である。

本作の舞台は江戸。大阪で暮らしていた幼馴染の主人公・澪(松本穂香)と野江(奈緒)は大洪水で離れ離れになってしまう。その後、野江は吉原の花魁となる。澪は味覚のセンスを見込まれ蕎麦屋・つる屋の主人種市(石坂浩二)の元で料理人として働くが、大阪と江戸の料理の味の違いに戸惑いながら、切磋琢磨して料理人としての腕を磨き、江戸で評判の女料理人になっていく・・・。

薄味好みの関西育ちの主人公が、濃い味好みの江戸で好まれる料理に辿り着くまでのプロセスは試行錯誤の連続である。その姿は料理という道を究めようとする求道者のようだ。主人公に松本穂香を起用したのが効いている。松本穂香は持ち味を活かし、料理に対して一生懸命に取り組む姿勢を熱演している。あくまで庶民目線で、市井の人々に美味しい料理を食べてもらいたいという想いが伝わってくる。

主人公の人生は幸運に恵まれず苦難の連続である。それでも諦めずに料理に直向きに向き合っていく姿に胸が熱くなる。漸く料理人として認められても、野江とは料理を通しての交流しかできない切なさが涙を誘う。料理は作った人の個性が投影される。幼い頃に食べた料理を食べれば、料理を作ってくれた人を思い出す。野江との料理を通じての交流に、そのことが良く表現されている。

主人公が創り出す庶民的な料理の数々がどれも美しい。彼女の想いの結晶であり、料理への愛情が料理の美しさに現れている。シンプルで美しいという日本料理の原点のような料理である。

本作は、若き女料理人の成長を通して、試練ばかりの人生でも、真摯に努力し続けていけば、必ず道は拓けるということを教えてくれる良作である。

みかずき