劇場公開日 2020年2月28日

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「人間の弱さを克服するものは ただ慈悲を」黒い司法 0%からの奇跡 sugikenさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5人間の弱さを克服するものは ただ慈悲を

2020年3月10日
iPhoneアプリから投稿

原題「JUST MERCY」
2020/03/10
監督 デスティン・ダニエル・クレットン
出演 マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックス、ブリー・ラーソン

キーワード
1.黒人差別
2.死刑制度
3.冤罪

1.黒人差別
舞台は1980年代のアラバマ州。黒人差別が根強く残る。主人公のブライアンは弁護士という身分でありながら、刑務所を訪れた際に、白人看守からボディチェックという名目で裸にされたり、車で走っているだけで、警察に呼び止められ、銃を頭に突きつけられる。
明らかに不当な逮捕、判決なのに、被告人ウォルターは「黒人は生まれつき有罪なんだ」と諦めてしまっている。もはや反抗する気も起きないほど、差別は激しく、権力の上下関係が生まれてしまっている。
今でも、アメリカは「黒人男性の3分の1が刑務所に入ったことがある」という構造的問題を抱えている。

2.死刑制度
ウォルターの独房の隣に、ベトナム帰還兵の黒人男性が収監されている。彼は精神を病んでおり、爆弾で人の命を奪ってしまった。
ウォルターや仲間たちが彼に「あなたがいるべき場所はここ(刑務所)じゃない。病院だ」というシーンがある。
「刑務所は最後の福祉」と言うように、本来別の手段で保護されるべき人々が罪を犯し、刑務所で生活しているのは、現代の日本でもある。ベトナム帰還兵の男も適切な治療を受けていれば、罪を犯さずにすんだかもしれない。

ブライアンの奔走むなしく、男の死刑は執行されてしまうが、この過程がこれでもかと詳細に描かれる。頭も眉毛も剃られ、電気椅子に腕、脚、頭が拘束される。恐怖で呼吸は激しくなり、鼻水が出てくる。執行部屋には男が選んだ「最後の音楽」が鳴り響く。
囚人仲間たちは、独房でコップを格子に叩きつけながら「あんたは1人じゃない。俺たちがついてる」と叫ぶ。その音は男の耳にも届き、少し表情が柔らかくなる。その直後、電流がはしる。刑が執行されたのだ。

確かに男は犯罪を犯したが、人の命を奪ったことが罪なら、罪を犯した人物の命を奪うことは許されるのだろうか。殺人が野蛮で人間の本性に反するというなら、国家の合意のもとで行われる死刑
もまた野蛮で人間の本性にもとる行為ではないだろうか。

初めて刑の執行に立ち会う看守に先輩看守が言う。「まともに取り合うな。精神がやられちまうぞ」。

「犯罪者は殺してしまえ」という人たちは、死刑がどんなものか、どれくらいリアルに考えたことがあるのだろうか。「まともに取り合ったら、精神がやられちまう」のが本能的に分かっているから、目を背けているのかもしれない。

3.冤罪
ウォルターは明らかに潔白にも関わらず、犯人を早く逮捕したいという警察のメンツや黒人差別のために無実の罪に問われた。
どれほど、人類が進歩しても冤罪をなくすことはできない。罪を犯すのが人なら、罪を裁くのも人であり、そのどちらもエラーからは逃れられないからだ。
「現在も冤罪の可能性のある死刑囚の10人に1人しか釈放されていない」という本編最後の文言が重く響く。
死刑制度を考える時に冤罪は常に頭に入れておかなければいけない要素だろう。

総評
原題「JUST MERCY」は「ただ慈悲を」。どんなに貧しく、恵まれない人に対しても慈悲を向け、逆境の中でも正義を貫くことが真に人間らしいことだと教えてくれる映画。人間の弱さ、醜さは人間の強さ、美しさで克服するしかないのだ。
★3.5

sensei_nyanko