「アニメ撮影の映像美」劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0アニメ撮影の映像美

2020年8月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

『Fate/stay night』の分岐ルートの一つ、Heaven's Feelを3部作で映画化した最終章。全二章で主人公のドラマの一番の山場を乗り越え、あとはクライマックスまで怒涛の勢いで突き進むという感じだ。本作は「序破急」の急だ。衛宮士郎がヘラクレスのナインライブスを投影する時、ヘラクレスの人生が走馬灯のように見えるアニメオリジナルの演出は非常に良かった。武器を投影するとともに武器に宿った記憶まで投影したということだろうか。その演出にも反映されているように、HFは他のルートよりも、個々の人間の人生の重みをより感じさせる。衛宮士郎は、桜だけの正義の味方になると言う。一人の人生をまるごと背負うという決意は、広い世界を救うということよりも重たく感じられるものなのではないだろうか。どうしても、全体を広く俯瞰すると、一人一人の命もただの数字に見えてきてしまう。
今回も撮影処理が抜群に良い。夜のシーンが多いが、どれも同じ色ではない。紫色の夜もあれば青白い夜もある。夜のシーンは、光源の設定にセンスを要求されるが、どのシーンも美しい。カメラワークも撮影者の意思を感じさせる。アニメ製作において、撮影は今後ますます重要になっていくだろう。アニメ撮影を堪能する上でも本作は極上の一品。

杉本穂高