劇場公開日 2019年1月25日

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「人類が築くカルト集団の愛憎を描いた傑作」サスペリア beshさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人類が築くカルト集団の愛憎を描いた傑作

2019年2月1日
iPhoneアプリから投稿

期待以上の素晴らしい作品だった。

興味深いのは本作が魔女ホラー作品ではなく、過激思想を持ったカルト集団をテーマに感じた点。ホラーとしてだけ期待すると、序盤は確かに肩透かしになるかもしれない。恐怖展開はまったく起こらず、スローペースで、本筋と関係ないとの批判もあるようだが、本作のテーマを暗示させる社会情勢を描いている。第二次世界大戦後もナチス残党が暗躍する政府に対し、過激な左派がテロ行為を行う危うい状況。カルトな正義であったナチスの幻影と、新しいカルトな正義である赤軍の衝突。

そうした時代背景を描くことで、理想を掲げ、疑似家族を形成し、信じる者たちのエネルギーによって惨劇を繰り返す人間の普遍的なテーマが内包していることに気づかされる。魔女の舞踏団を、そうした人類史上、万国津々浦々、生まれては消えるカルト集団のメタファーとして表現する想像力に脱帽。

宗教、国家、会社。愛と憎しみが入り混じり、疑似家族としても形成され、時に正の、時に負の、狂信的なエネルギーとなって変革と破滅を繰り返す。まさかサスペリアのリメイクにこんな壮大なメッセージを受け取るとは。

本作は決して深淵なストーリーということではなく、終盤、聖母を受け継ぐ、泥臭い跡目争いみたいな展開になるのも非常に面白い。神がかってたキャラクターが愛憎を感じさせ人間臭くなっていったり。愛情を注いで育てる母子の話でもあり、一人の期待の新人が成り上がるスター誕生の物語とも言える。それを示すNOT ARTの絶叫!アート映画じゃねぇーんだよ!って言うことをメタ的に言ってんのかな?とか、ディテールの解釈なんかもいちいち楽しめる。

映像表現としても斬新なシーンが何度もある。第1に起こる残虐な展開も、もしかすると何かのオマージュかもしれないが、暴力描写の発想が売りでもある北野武映画ファンもびっくり。舞踏でヤってしまうとは。。一大フィナーレとなる儀式パフォーマンスは、舞台芸術としても素晴らしい。肉体と光と音で観客を圧倒する。

トムヨークの音楽も冴えてて、魔女ミーティングで、投票していくとこに音楽が重なっていくシーンとかレディオヘッド感あって単純にアガる。それぞれのキャラクターもはまってるし、裸でぐちゃぐちゃになったり体当たりすぎる。

ダリオアルジェントは激怒らしいが、ま、まったく別物だから無理もない、、、何の遠慮もなく自由に製作した感じがあって、シガラミなく金だけは潤沢にあるからなのか。amazonスタジオの今後が楽しみだ。

賛否あるのも頷けるし、痛みを露骨に描くシーンが盛りだくさんなので苦手な人もいるだろうが、是非、映画館で観るべき1本。

ポコだるま