劇場公開日 2018年10月19日

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「奴らに死を願うほどの後悔を」デス・ウィッシュ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0奴らに死を願うほどの後悔を

2018年10月21日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

興奮

チャールズ・ブロンソン主演の'74年作『狼よさらば』を、ブルース・ウィリス主演、
『キャビン・フィーバー』『ホステル』のイーライ・ロス監督でリメイク。
(なお自分は、あらすじ程度は知っているがオリジナル版は未見)
シカゴで外科医として働く主人公が、強盗に妻子を死傷されたのをきっかけに、妻と娘を襲った犯人や
街の悪党を抹殺して回るアマチュアの処刑人となっていく姿を描いたアクションスリラー。

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まずは数多のアクション映画に出演してきたB・ウィリスが殺しのアマチュアを演じる所が妙味。
あのブルースが最初は暴漢に殴られて手も足も出なかったり、銃弾を外しまくったりと散々だ。
また、発砲時に銃のスライドで手を怪我したり、銃撃戦のさなかにジャム(弾詰まり)を起こしたり、
大抵のアクション映画ではあまりお目にかからない銃の動作不良や操作ミスもしばしば発生。
アクション映画のスケールとしてはかなり地味な部類の作品とは思うが、
その地味さアマチュアっぽさが作品に良い塩梅の緊張感をもたらしているし、
主人公カージーをより観客に近い存在として共感し易くもしていると感じた。

殺された妻や昏睡状態の娘に向ける、静かだが物悲しげな表情も良い。あまり感情を
表に出さないカージーが終盤、涙ながらに怒りを吐露するシーンにも目頭が熱くなる。
ヴィンセント・ドノフリオ演じる弟もいいね。若干ダメ人間だが、兄を本気で心配してる。
(ドノフリオさんが珍しく善人の役、て言ったら怒られるかねえ)

「復讐はいけない」とか「暴力は更なる暴力を生むだけ」とか訓示めいた言葉は頭に浮かぶけど、
愛する者を大した理由もなく殺され傷付けられた人が怒り狂うのは至極当然だ。
そいつらがいっそ死にたいと願うくらいの目にあわせてやりたいと思うものだろう。
警察に勘繰られながらも、主人公が着々と復讐を果たしていく姿にはやはり胸がすく。

しかし、重めの内容と思いきや、全体のエンタメ性や最後の締めも含めて意外と軽やかな印象。
あとは残虐ホラー『ホステル』のイーライ・ロス監督ですからね、あれほどじゃないけど
ブレーキ液やらボウリング玉やらの一風変わった使用方法も見られますよ。あいたたたたた。

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SNSやネット放送上で主人公が“死神”としてまつりあげられていく様子も現代的でリアルだし、
毎週数十件発生する銃撃事件のニュースとか、可愛い女性店員がオススメの銃を紹介して
「講習受けて72時間で銃が持てるよ☆」と嬉々として主人公に語るところとかに
銃社会アメリカのいびつな姿を感じたりもした。

『この銃社会では警察はいつも手一杯で手遅れ。家族は自分が守らなければ』
という、基本的には自衛力としての銃所持を認める方向に描かれた物語ではあるわけだが、
主人公を真似した自警が逆に撃ち殺されるというニュースが劇中に登場するあたり、
暴力に対する暴力は必ずしも満点回答ではないという視点も盛り込まれているとは思う。
(まあそれでも8:2くらいで銃推奨、という感じ。レインズ刑事も最後あんな感じだし。)

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人命を救う医者である主人公が殺人に手を染めていくという皮肉や葛藤をもっと
描いてほしかった気はするし、銃規制が叫ばれる昨今、個人的には
銃以外の解決手段を多少でも示せなかったのだろうかとは思うが、
ブルース・ウィリス扮する主人公の人間みやリベンジアクションとしての爽快感、
イーライ・ロスらしい生々しいバイオレンス描写などが楽しめる作品だったと思います。
3.0~3.5といったところだが……3.0判定で。

<2018.10.20鑑賞>
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長い余談:
ざっくりと調べたところではだが、
映画で登場したグロック17は600ドル程度、もっと低品質な銃なら200ドル程度でも入手可能らしい。
[修正:最初20ドルって書いてましたがゼロがひとつ足りませんでしたスミマセン]
で、使用する9mm弾は50発入りで20~40ドル程度。つまりは、最低約220ドルで人が殺せる訳だ。
『億男』でもモノの価値を色々と考えさせられたが、人の命が最低220ドルとは随分と……舐めた話である。

「銃は危険だから規制をかけよう」と言うは易いが、アメリカはその黎明期から銃社会だったわけで、
すっかり銃が流通しきっている現状でいっぺんに規制をかけたりしたら、既に流通済みの銃や非合法に
取引される銃の持ち手に対して防衛手段をとれない民間人ばかりになってしまうというこのジレンマ。
銃を使った脅迫・強盗・殺人がバンバン発生する現状、自衛力としての銃の所持には
致し方無い部分もあるのかもしれない、というのが個人的な意見ではある。
本当に銃を規制するなら、牛歩どころではないが少しずつ少しずつ
地道に銃を減らし、同時に新しく銃は売らない方向に進めていくしかないのだろう。

なお、ウォルマートやディックスといった販売大手では、多くの銃乱射事件の
発生を受けて2018年から銃の購入年齢を18→21歳に引き上げたんだそうな。
ちなみに全米ライフル協会ご本尊はトランプ大統領からの
購入年齢引上げ要請に反発してるそうだが……前進は前進。
※と思いきやトランプはINF(中距離核全廃条約)脱退を10/21に表明。この人やっぱダメだわ。

浮遊きびなご