否定と肯定

劇場公開日:

否定と肯定

解説

「ナイロビの蜂」で第78回アカデミー賞の助演女優賞に輝いたレイチェル・ワイズがユダヤ人大量虐殺=ホロコーストをめぐる裁判を争う歴史学者を演じる法廷劇。1994年、イギリスの歴史家デビッド・アービングが主張する「ホロコースト否定論」を看過することができないユダヤ人女性の歴史学者デボラ・E・リップシュタットは、自著の中でアービングの説を真っ向から否定。アービングは名誉毀損で彼女を提訴するという行動に出る。訴えられた側に立証責任があるイギリスの司法制度において、リップシュタットは「ホロコースト否定論」を崩す必要があった。そんな彼女のために組織されたイギリス人大弁護団によるアウシュビッツの現地調査など、歴史の真実の追求が始まり、2000年1月、多くのマスコミの注目が集まる中、王立裁判所で歴史的裁判が開廷した。主人公リップシュタットをワイズが演じ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・スポールらが脇を固める。

2016年製作/110分/G/イギリス・アメリカ合作
原題:Denial
配給:ツイン
劇場公開日:2017年12月8日

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(C)DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016

映画レビュー

3.5ユダヤ人迫害問題を現代的な文脈でとらえ直す姿勢は評価するが

2017年12月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

知的

ナチスドイツによる戦争犯罪とユダヤ人迫害の歴史は、欧米の映画で手を替え品を替え、多様な切り口でコンスタントに描かれ続けている。本作もそうした「ユダヤ物映画」の一本だが、単なる歴史の振り返りではなく、ポスト・トゥルースとフェイクニュースの現代に通じる“今ここにある問題”として提示したのがミソ。「訴えられた側に立証責任がある」英国の司法制度もどうかと思うが、主人公にとっての困難がドラマ性を高める要素になったのも確か。

米大手スタジオの多くがユダヤ系米国人によって創設されるなど、ユダヤ勢力からの影響が強い映画業界が、ユダヤ人が差別されてきた歴史の啓発と地位向上の道具として映画を活用してきたことは理解できる。一方で、イスラエルでユダヤ人がパレスチナ人を迫害している事実については、このような大金をかけたドラマ作品などで描かれることはほとんどなく、バランスを欠いているようにも思える。

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高森 郁哉

3.0あからさまな裁判での人的資源の損失も、まだ健全な社会での出来事のように思えて…

2023年4月22日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD
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KENZO一級建築士事務所

3.5裁判は大変…

2022年4月26日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル
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KEI

1.0ホロコースト否定派は惨敗したと言いたいだけの映画

2022年1月17日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

1)作品の背景
ドイツではナチスへの賛美をはじめ、ナチス式敬礼やシンボルを提示することさえ刑法で禁じられ、ヒットラーの「我が闘争」は長らく出版禁止されていた。
このように臭いものに蓋をすることで、民族差別やホロコーストがなくなるかは大いに疑問であり、それはドイツ内のネオナチ運動の頻発などの報道からも伺われるところだ。

それ以外の欧米諸国では当然ながら表現の自由が重視されるから、歴史見直し論者の活動する余地があり、中には「ホロコーストがなかった」と主張する作家さえ現れてきた。本作はその作家の著述を批判した歴史学者が、作家から名誉棄損の民事訴訟を提起され、その訴訟の経緯を描いたものである。

2)歴史見直しの意義
ドイツの場合、ホロコーストの責任をすべてナチスに押し付けて、一般国民は犠牲者であるというフィクションを導くために「歴史を掘り起こすな」と言っていると思われる。
しかし、例えば南京大虐殺という史料の存在しない事件や、朝鮮人従軍慰安婦の強制連行などという架空の物語を国際的に固定化させ、それについて日本に「歴史を掘り返すな」などと言われてはたまったものではない。
その視点からは、歴史は不断に見直されるべきであり、その政治的立場の如何を問うものではないと考える。ただ、見直しは史料等の事実に基づいて行われるべきであり、そこに虚偽、捏造があってはならない。だから相互批判という表現の自由が不可欠となる。本作もそのような法制度の上で成立している。

3)ホロコースト否定論の描き方
2)で述べた観点からは、映画ではまず法制度のあらましと争点、訴訟当事者のなすべきことを概説すべきだろうが、まずこの点が不十分である。原告による証拠捏造の立証責任が被告側にあることくらいはわかるが、そもそも争点自体が明確化されないから、全体として当事者双方が何をすればいいのかわからない。したがって、どうすれば被告に有利で、どうすれば不利になるか、皆目わからないままに映画が進行する。

当事者の主張は、はじめはアウシュビッツの建築構造から見たホロコースト否定論、次はナチス幹部の通信記録からみた証拠捏造論、最後は原告の差別言論に対する糾弾で、これではホロコースト否定論の十分な根拠や、それを突き崩す論理も何もわからない。争点もへったくれもなく、ただ原告が勝つか被告が勝つか、映画の結論を待つしかないのである。

時間が足りなかったのか? いや、レイチェル・ワイズ演じる被告女性の日常生活とか自己主張したがる鬱陶しい性癖、被告弁護団の論争など、さほど重要でないシーンを延々と描いているではないか。それをカットすれば、当事者双方の主張を十分説明する時間はあっただろうに。
それを踏まえると、やや陰謀史観めいてくるが、この映画は争点を詳しく描きたくなかったのではないかとの疑念さえ湧いてくる。

4)評価
映画製作の真相はわからない。しかし、出来上がったのは、訴訟モノとしてはひどくレベルの低い代物だとしかいえない。
法制度の説明不足、曖昧な争点と曖昧な当事者の主張、意味不明な判事の職権質問…要は、ホロコースト否定派は惨敗したと言いたいだけの映画ではないか、と言ったら言い過ぎだろうか。役者がいいだけに、何とも残念な作品だった。

5)補足
後日、NHK-BS「ダークサイド・ミステリー~世紀の歴史裁判」でこの事件を取り上げているのを見たところ、訴訟の内容が映画よりよほどわかりやすく描かれていたので笑ってしまった。それによると、事件の全体像は次の通りである。

①被告は著書において、原告が「ヒトラーを擁護するために歴史資料を加工し、ホロコーストの事実を歪曲した」と批判した。
②それに対し、原告は名誉棄損であると提訴した。
③当時の英国法制度によると、被告が「自分の言論の正当性」を立証しなければならない。具体的には、次の事実を原告の著書や講演の発言と、その基になる史料を調べ上げて立証する必要がある。
〇原告がヒトラーの熱烈な崇拝者であること
〇そのため史料の捻じ曲げ、歪曲が行われたこと
④審理において被告側は、③を具体化させた争点として次の諸点を挙げ、これらを立証すると表明したこと。
〇ヒトラーはユダヤ人虐殺を命じず、虐殺を止めようとしたのか?
〇ガス室で大量虐殺は行われていないのか?
〇史料の捻じ曲げは反ユダヤ主義思想によるものか?

映画はほぼこの争点に沿って展開しているが、それだけ争点の説明不足が際立つ。
例えば、ヒムラ―の通話記録のうち、「ユダヤ人を死亡なしで移送のこと」とある誤訳問題が取り上げられている。これは上の「ヒトラーがユダヤ人虐殺を止めようとしたのか」という争点につながる重要な問題なのだが、それが何一つ説明されていないから、何故こんな通話のことを論争しているのか、皆目分からないのである。
また、最後の裁判長の質問は、上記④の「史料の捻じ曲げは反ユダヤ主義思想によるものか?」という争点に関するものだが、「心底信じ込んでいれば、反ユダヤ主義による捻じ曲げとは言えないのではないか」と因果関係を否定する主張は無理筋としか言いようがなく、映画の上で無意味に気を持たせようとしただけではないか。現に、上記TV番組では、これにまったく触れていない。

上の事実を確認してから、この映画の欠点が余計明白になった気がする。申し訳ないが、この映画は「駄作」の一言に尽きる。

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徒然草枕
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