劇場公開日 2017年9月9日

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三度目の殺人 : インタビュー

2017年9月7日更新
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福山雅治×役所広司、真っ向から対峙した是枝組に思い馳せる

日本を代表する映画作家・是枝裕和監督が、新たな傑作「三度目の殺人」を完成させた。近年、ホームドラマに軸足を置いていた是枝監督が今回、題材として選んだのは法廷心理劇。1年間以上にわたり弁護士や検事への取材を敢行するなど、丁寧な開発期間を経て書き上げたオリジナル脚本を手に、法廷で、接見室で、真っ向から対峙したのが福山雅治と役所広司だ。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)

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今作は、勝利至上主義の弁護士・重盛(福山)が、“負け戦”と覚悟しながら30年前にも殺人の前科がある三隅(役所)の弁護を引き受けるところから始まる。強盗殺人にいたる動機が希薄だと感じた重盛だが、供述が二転三転するため、接見するたびに確信が揺らいでいく。やがて、三隅と被害者の娘・咲江(広瀬すず)との接点に気付くことで、新たな事実に直面する。

「人殺しが出てくるような映画を撮ったことがなかった」と撮入前に語った是枝監督は、「神の目線、全てを知る人が登場しない法廷ものが果たして成立するのか」を検証するため、弁護士陣の協力を仰ぎ、作品の設定通りに弁護側、検察側、裁判官、犯人、証人に分かれた模擬裁判を実施。ここで出てきたリアルな反応や行動などを抽出し、脚本に落とし込んでいったという。

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福山にとっては、第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、日本でも大ヒットを記録した「そして父になる」に続き、是枝監督とは映画で2度目のタッグとなった。「『そして父になる』を撮っているときから『監督、次どうします?』という話はしていたんです」とほがらかに話す面持ちからは、ただただ良質な映画をファンに届けるため、前向きに意見を戦わせる是枝組の真摯な姿勢に心を打たれたことがうかがえる。

「映画作りにおいてのスタンスは前作と変わっていません。いつもハッとさせられるのは、どのように作品をつくっていくかの初期設定の仕方がすごいと思います。『そして父になる』では、カメラマンの瀧本幹也さんを撮影監督に起用された。監督はCMを見て素敵なカメラマンだと印象に残っていたみたいなんですが、会った事がない、と。映画製作において、一緒に仕事をしたことがないカメラマンと組むってとても勇気のいることだと思います。普通はどこか慣れ親しんだスタッフを置いていたいと思うものなのに、そこにいかないんです。今回でいえば、監督のありようが一番のサスペンスかもしれません(笑)。完成した映画から逆算して考えたとき、どこまで自分を揺さぶるかをご自分で設定していらっしゃるように感じました。その勇気というか、覚悟がすごいなあといつも思わせられます」

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一方、役所にとっては、初めての是枝組。是枝監督は「去年の年賀状に『そろそろですね』って書いてあったの。ああ、そろそろかなあと思って」とオファーに至った経緯を筆者に明かしている。「ええっ!? そんなことがあったんですか?」と驚く福山に対し、役所は「いやいや、だいぶ前から面識はあったもんで、年賀状は出していたんですよ。『そろそろですね』って、毎年書いていたんだけどなあ。随分待ちましたねえ」と感慨深げにほほ笑む。

「やっと是枝組で働けるっていうのは、本当に楽しみでした。そもそも、是枝映画のファンですから。これまでは作品を見ても、もともとドキュメンタリーを作っていらした是枝監督が『これはどうやって撮っているんだろう?』『このリアリティはどこからくるんだろう?』という風に、興味を抱かされていましたし。そういう現場で仕事ができるって、夢でもありましたね」

クランクイン前の1月、三隅に役所をキャスティングしたと明かす是枝監督は、「今まで避けてきたわけではないけれど、やるからには演出家として相当な覚悟のいる役者なので、胸を借りるつもりで入って頂いた」と胸中を明かしている。「そんなことはないですよ」と謙遜する役所だが、是枝監督の演出を堪能した様子だ。なかでも、今作で法廷のシーンとともに重要な芝居場となる接見室の“対決”からは、目を離すことができない。

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「大スクリーンに、自分の顔があんなに映るとは思ってもみませんでしたね(笑)。接見室のくだりは、脚本が変わっていったんですよ。最初の本でも面白いと思っていたんですが、監督は変えてこられる。今まであったものを捨てるのはもったいないとも思うのですが、監督は毎日撮影をしながら、どんなに遅い時間になっても事務所へ戻って軽く編集をしていたらしいんですね。そうやって変わっていくというのは、きっと映画にとって正しい方向なんだろうなと思っていました」

今作は第74回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に正式出品が決定。是枝監督にとっては、デビュー作「幻の光」以来、約22年ぶりの同映画祭参加。世界中の映画人が集うベネチアで、作品を通じて「人が人を裁けるのか」と問いかける意義は大きい。役所は、2009年5月の裁判員制度施行後に、是枝監督が法廷を題材にした今作を製作したことに大いなる意味を見出しているようだ。

「周防正行監督が『それでもボクはやっていない』を撮られましたが、あれは裁判員制度が導入されるギリギリ前の2007年でした。今回は裁判員制度施行からのものを是枝監督が撮られた。ああ、随分変わったんだろうなと思いますね。それに、監督が違えばこんなにも雰囲気の違う裁判ものが出来るというのも不思議な感じがします」

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2人の是枝監督に対する信頼は、揺らぎようがないほどに強固なものといえるが、では、がっぷり四つに組んだ福山と役所は、どのような関係を構築していったのだろうか。ともに長崎県出身という、同郷の先輩・後輩が笑みを絶やすことなく、滑らかな口調で繰り出す応酬は爽快感すらある。

福山「気持ちよくいじめていただきました(笑)。これは僕のずるいところなんですが、よくインタビューなどで『弁護士としてどういう準備をしてきたんですか?』という質問を受けることがあります。もちろん僕も準備はしますよ。ただ、きっと役所さんが演じられる三隅という人間が、僕を弁護士にしてくれるであろう、弁護士として見せてくれるであろうという、渡りに船のような状態と申しましょうか(笑)。それくらいの吸引力、求心力を役所さんはお持ちで……。すみません、甘えてばかりで」

役所「こうして一緒に仕事をして、さらに近くなった感じですねえ。そもそも面識がない頃から福山君のことは映像で見ていましたが、なんかやっぱり同郷というだけで無意識に近い感覚を持っていましたね。ラジオを聴いていても、時おり長崎弁をしゃべったりして……、それだけで親近感を抱いていました。なんで俳優をやっているのかは分からないんですが(笑)、映画の現場にいてガツガツしていない、すっきりとした役者くさくないスマートな感じがしますね。それは、福山君にとっては無意識なことなのかもしれないけれど、これは俳優としての魅力であり、武器なんだと一緒に仕事をしていて感じていました」

インタビュー2 ~是枝裕和監督が投じた新たな一手、その真意に迫る
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