劇場公開日 2017年1月2日

「つっぱることが人生の勲章」人生フルーツ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.5つっぱることが人生の勲章

2019年2月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

幸せ

 名古屋郊外の高蔵寺ニュータウンのことは、学校の地図帳や資料集に載っていたことを記憶している。そのニュータウンのグランドデザインに携わり、自らもその町に住み続けている建築家とその奥様の姿を追うドキュメンタリーである。
 建築家が当初思い描いたコンセプトとはかけ離れた姿になって出来上がったニュータウンに彼はなぜ住み続けるのか。そこにあるのは社会への強い抵抗と拒絶である。
 映画は表面上、ご夫婦のロハスな生活が映し出される。もちろん、彼らは「ロハス」を求めているわけでも「スローライフ」を楽しんでいるわけでもない。他の選択肢などあり得ない強い決意がそこにはあるのだ。
 建築家は若い頃、高座海軍工廠で台湾から来た少年工たちと働いていた過去がある。たまたまこの正月、台湾の小説「自転車泥棒」を読み少年工の話を知る機会があったので、歴史的な視点から彼の人生を見つめることができた。
 また、仲の良かった少年工の消息が分かり、墓参りをするところは、台湾映画「スーパーシチズン 超級大国民」の主人公の姿と重ねずにはいられない。
 戦争や都市計画で裏切られ続けてきたこの建築家とその奥様の生き方を、安易に賞賛したり憧れることを、我々は慎まねばならない。
 光と風が通らない町で子供を育て、添加物が大量に入った食品を家族に食べさせている者に対する、強烈なプロテストが彼らの生き方なのだ。
 大量に物質と自然を消費することで保障される便利な生活に背を向け、長い時間と手間をかけて自然を育てるご夫婦の人生を観て、居心地の悪さを感じないとしたら、自らの姿が見えてなさすぎるのだ。あの家にTVなどなかったことに気付いているだろうか。下らないメディアに費やす時間など彼らにはないのだ。
 映画を観ている間ずっと、親に小言を言われているような気持ちだった。
 ご夫妻の人生の覚悟の強さに、なんとか少しでも近づいていきたい。

佐分 利信