劇場公開日 2017年11月18日

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「むか~しむかし、語り継がれるべき物語があったそうな…。」KUBO クボ 二本の弦の秘密 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0むか~しむかし、語り継がれるべき物語があったそうな…。

2018年6月15日
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鑑賞方法:DVD/BD

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むか~しむかしのことじゃった。
あるところに、三味線の音色で折り紙を自由に操れる少年がおってな…。

…と、そんな語り口で始まっても何の違和感もナシ、アニメーション・スタジオ“ライカ”によるストップモーション・アニメ。
これまでも『コララインとボタンの魔女』『パラノーマン』などオリジナリティー溢れる良質の作品を発表してきたが、今作は格別!
レビューの語り始めからも分かるように、題材は“日本”!

物語の舞台は、江戸時代風の昔の日本。
キャラの造型や村の雰囲気、回想シーンは浮世絵風、三味線、折り紙、侍、灯籠流しなどなどなど、挙げたらキリがないほどの日本文化のインスピレーションとオマージュ。
“サル”と“クワガタ”をお共に冒険、襲い掛かって来る化け物は妖怪。
これまでのライカ作品と日本文化を合わせたような異色の冒険ファンタジーだが、こりゃもう立派な日本の昔話。日本の昔話にだって、こういう奇妙な味わいの物語は幾らでもある。
大の日本文化好きという監督のトラヴィス・ナイトの、細部にまでこだわり抜いた日本絵巻に魅了される。

ライカ作品と言えば、手書きともCGとも違う、パペットを動かすストップモーション。
今回もそのクオリティーの高さに目を見張らされる。本当に、瞬きしてはならぬほど。
村、雪原、海、竹林、洞窟など見事なセット。
特に、波風荒立つ嵐の海の表現、巨大骸骨との闘いは、作り手側が苦労を滲ませた甲斐あって、必見モノの迫力。
また、主人公クボの豊かな表情。
パーツの組み合わせでライカ史上最も表情豊かなキャラらしく、クボの喜怒哀楽の表情、確かにそれは感じた。

日本文化やクオリティーの高さに目が行ってしまいがちだが、話の方も独特で面白い。
病弱な母と暮らすクボ。
そんな彼に迫る魔の手が、月の帝。何と、実の祖父!
元々天界人であった母が人間の男と恋に落ち、怒りを買ったのだ。
母は自らの命と引き換えに我が子を逃がす。「3つの武具を探して」という遺言を遺して…。

危機とアクションのスリルいっぱいの旅、不思議な世界観…冒険ファンタジーとしても単純に面白い。
そこに、クボの出生の秘密や親子愛を織り交ぜ。
旅の同行者である厳しいメスザルと、抜けてるクワガタ侍。
この二人の夫婦漫才のようなやり取りがユーモアもプラス。
実はこの二人…。

冒険を経て、自らの出生も知り、遂に月の帝と対峙。
実の祖父との闘いの決着は…?

むか~しむかし、あるところに、一人の少年がおった。
その少年は旅に出て、敵や困難と闘い、
自分の生まれも知り、
母様、父様の愛や思いも知り、
美しい三味線の音色と共に、語られるべき物語を語り継いでいったそうな。

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最後に、本作とはほとんど関係ないが、この場を借りてどうしても言いたい事が。
クボの日本語吹替を担当したのは、先日『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけの声を降板する事になった矢島晶子さん。
矢島さんあってのしんのすけ。だからもう、信じられなかった。
でも、長年あの独特の声を保ち続けるのは非常に難しいらしく、他の仕事を断る事も暫々あったという。
あの声をもう聞けなくなるのは残念だが、本作のクボのような好演を聞けないのも惜しい。本当に才ある名声優さんなのだから。
プロとしての英断。
拍手と尊敬を持ってそれを尊重したい。
26年間、野原しんのすけとして、笑わせ、泣かせてくれて、ありがとうございました。今後の幅広い活躍にも期待してます。
それから、先日決まったばかりの2代目声優さんも頑張って下さい。

(関係ない事を長々と申し訳ない! 本来なら、矢島さん最後の今年のしんのすけ映画がレンタルされた時にでも書けばいいのだが、それだと遅くなり過ぎるので…)

近大