劇場公開日 2017年3月18日

  • 予告編を見る

「がっちがちのSFとファンタジー。エンジニアへの賛歌。」ひるね姫 知らないワタシの物語 情報科出身さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0がっちがちのSFとファンタジー。エンジニアへの賛歌。

2017年3月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

あえて☆は5とした。多くの人に「ちゃんとした形」で観られるべき映画だ。
この作品は決して単なる青春ファンタジーではない。
SFをメタファーとした、技術者ドラマである。主人公はその「技術者たち」の物語をメタファーとして、壮大な夢として記憶していた。
 予告編とのギャップがすごく、おそらくジュブナイルSFだと思って見に来ると面食らうと思われる。最初に発せられる「お姫様」の台詞や夢の中の世界の設定で「は!?」となるはず。だが、それが良い。がっちがちのスチームパンクなSFとファンタジー。それはレイアース、AKIRA、パシリム、エヴァンゲリオン、攻殻機動隊などを彷彿とさせる。
 そこに「パプリカ」や「マイマイ新子と千年の魔法」の手法を彷彿とさせる、SFの世界(夢の中)と現実社会がつながっていく描かれ方をベースに、夢の中が現実へのメタファーとして描かれていく。夢の中で描かれる「魔法」は現実社会の「技術革新」のメタファーとして示唆され、ここが特に素晴らしく描かれている。
 現実の世界の話は「半沢直樹」や「下町ロケット」の池井戸潤の小説を彷彿とさせる話で、きわめて経済小説的な内容だ。決して子ども向けアニメではない。大人向けの話だ。ある技術を巡ってドラマが繰り広げられる。そのメタファーとして、主人公の「夢の中」が語られていく。映画を見た後にきっと清々しい気持ちになれるかもしれないし、そうでないかもしれない。なぜなら、それは観る人のバックグラウンドに頼るところが大きいからだ。
 エンジニアや工学、プログラミングを少しでもかじったことのある人には涙無しで見れない作品になっている。また、SFへの造詣のある人なら、物語にすんなり入ることができる。そういう意味では「人を選ぶ」映画だろう。特に現実と夢の中がどのようにメタファーになっていて、ひとつの線として収斂されていくかを見るには、ある種のリテラシーが必要だと強く感じた。
 このちょっと難しい物語を理解するためには、「マイマイ新子と千年の魔法」や「パプリカ」を見ておくと現実と夢の中の行き来が理解しやすくなる。
もしくは、Hulu(最初の2週間は無料)で公開されている、本映画のサイドストーリーである「エンシェンと魔法のタブレット」を見てから映画館に足を運ぶことをお勧めする。
 レビューがおしなべて低評価となっているのが非常に残念でならないが、ある程度「リテラシー」の求められる映画だとは言わざるを得ない。もちろん惜しいところがある映画でもあるが・・・。
 予告編が青春ファンタジー的に描かれ過ぎて、本来見るべき層(エンジニア、ロボットアニメやSFを観る層)に全く届いていないのが非常に悔やまれるところだ。機械やSFに興味が無い人が観ても、正直面白くはないかもしれない。
でも、だからこそ、観て欲しい。夢が現実に対してどうメタファーとなっているのか、魔法が何のメタファーなのか、確かめて欲しい。
エンジニアにとって、もちろんそれ以外の人にとっても、とんでもないスルメ映画である。ぜひ劇場で。

情報科出身