劇場公開日 2016年11月26日

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疾風ロンド : インタビュー

2016年11月25日更新
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阿部寛×大倉忠義×大島優子が説く「日本映画ではなかなか見たことがない」ぜいたくな一品

原作はベストセラーとなった東野圭吾のサスペンス、主演は阿部寛とくれば「新参者」をはじめとする加賀恭一郎シリーズのような作風がイメージしやすい。否。NHK「サラリーマンNEO」を手掛けた吉田照幸監督の演出によってが然、コメディの色合いが濃くなった。大島優子は撮影に入るまで、関ジャニ∞の大倉忠義にいたっては完成した作品を見るまで気づかなかったほど、自然な流れで笑いの要素が絶妙にちりばめられている。「疾風ロンド」は、サスペンスとコメディを大胆に融合させた希有(けう)な快作となった。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)

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阿部は、2004~11年にわたって放送されたコント番組「サラリーマンNEO」にかねて注目していたという。その吉田監督がメガホンをとるとあって、それだけで出演を決意するには十分だった。

「僕は『サラリーマンNEO』に出たかったし、生瀬(勝久)さんとかを見ていてうらやましかった。その監督が何を考えているか、どういう演出をするのかその手腕を見てみたい、というところに一番興味がありました。NEOの人だから、すごくキレッキレの(沢村一樹が演じた)セクシー部長みたいな人が来ると思っていたけれど、意外に真逆でしたね(笑)」

装いはサスペンスである。医科学研究所から違法な生物兵器が盗まれ3億円を要求する脅迫メールが届くが、犯人が事故で死亡。主任研究員の栗林(阿部)はその捜索を命じられ、数少ない手がかりから野沢温泉スキー場が隠し場所であることを突き止める。だが、広大なスキー場での捜索は難航。加えて栗林はスキーが下手で、無理をしてじん帯を傷めてしまう。

「脚本を読んで、これは雪上で滑走しているようなスピード感のある映画だと思ったんです。その中でドタバタしながらとにかくかき回していく役なので、まずはやってみて監督がどういう演出をしてくださるかというのを試しながらやっていましたね。それに、上司から理不尽な指令を受けて追い込まれていく不器用な人間をどうやって面白く見せるか、人間味を出せるかということには挑みました」

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栗林は慌てふためくばかりで、活躍の場がこれほど少ない主人公も珍しい。そんな時に頼りになるのが、スキー場のパトロール隊員の根津(大倉)とスノーボードクロス選手の千晶(大島)だ。栗林の振る舞いや言動に疑念を抱きながらも、“落とし物”の捜索に奔走する。

大倉「明らかにおかしいんですけれど、あの場所には多分いろんな人が来るだろうし、気づかずに普通にやるのがいいのかなと思いながらやっていました。そうしないと信じるというところまで説得力を持たせられないので」
 大島「根津さんはちょっと抜け過ぎているくらい気づいていないけれど、私はものすごく警戒している。その関係性が空気として絶妙なところだと思うんです」

事実を知るのは栗林ただ1人なだけに、当然会話はかみ合わない。そこにクスッとした笑いが生まれるのだが、大倉も大島もコメディという意識は薄かったようだ。

大島「脚本の時はサスペンスだと思っていて、現場に入ったらあれ? 違うなって。私と大倉さんのシーンはそこまでコミカルじゃないんですけれど、阿部さんやムロ(ツヨシ)さんが入ってくると全然色が変わるんです。特に阿部さんのリアクションには目が点になるくらいビックリ。段取り、テスト、本番とバージョンアップしていくので、楽しくてワクワクしていました」
 大倉「僕は現場でもずっとサスペンスだと思っていたんですけれど、でき上がった作品を見てビックリしましたね。コメディやったんやって。やり取りで面白いところはあっても、お芝居的なものだと思っていたんですけれど、サスペンスという一本の軸に絶妙に笑いが入っているので、見終わった後にすごくいい映画を見たなという感じがありました」

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受ける側の阿部は堂に入ったもの。あくまでいい意味でだが、ズボッと雪に埋まってしまう姿でさえ絵になる。真実を伝えられないもどかしさ、残された時間は少なくなるが自分では何もできない焦燥感と、冷静な2人との齟齬(そご)を喜々として演じているようだ。

「そのかみ合わなさみたいなものが、回数を重ねていくことでかみ合っていることを発見したんです。ギャップというか、現場で2人のお芝居を見ながら温度差みたいなものを楽しんでやっていました。それであの感じができたと思うんですよ」

加えて、2人を含め息子役の濱田龍臣ら若手との芝居によって得るものも大きかったと強調する。

「いい意味で感性が違う。それは一線でやられてきている人だから磨かれているわけですし、それが自分の感性とぶつかり合って主役として受けると自分にとってはプラスになる。それこそ、自分が俳優を始めた時とは全く違う器用さだったりする。そこは刺激的でしたね」

その若い感性が存分に発揮されたのが、2人のアクションシーン。大倉はスノーモービルを見事に駆り、そのままジャンプしながらのラリアットを放つ離れ業を見せる。それが決まった時の表情は、実にアイドル的だ。

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「カメラ横ギリギリを行かなければいけないカットがあって、1回も練習できなかったんですけれど、本番でスレッスレに行けた時には決まったと思いました。その時はもうカメラに映っていないので、すごい自己満足ですけれど。ラリアットのところは、あそこだけ監督に求められたんですよ。『ここはジャニーズ顔で』って(笑)」

一方の大島は、9歳からスノーボードに興じていただけに「やっと来た。趣味が仕事になるって一番幸せ」と満足げな笑み。とりわけスキーのムロと並走しながらの格闘は、本人が「ジェダイのシーン」と称するほどの迫力とスピード感だ。

「2人だけで息を合わせてやらなければいけなかったので大変だったんですけれど、最初は違う撮り方をしていてそれがあまり迫力がないので違う日に撮り直したんです。スローで撮りますって言われて予想はついていたんですけれど、カメラじゃなくて自分たちがスロー(で動いてくれということ)だったんです(笑)。台本からどんどん膨らんでいって、いろんなことを経験させてもらいました。でも、邦画では見たことのない映像だったから良かったです」

阿部によれば、スノーボードが趣味の東野氏もそのシーンに太鼓判を押したそうで「そこはちょっと悔しい」と苦笑交じりにこぼしたが、「スピード感のあるスキーの映像は本当に素晴らしい。皆で作った演技の部分もすごく楽しめる。あっという間に見終わる、エンタテインメントとしていいものができたと思っている」と作品には絶対の自信を見せる。

大倉と大島からも、「日本映画ではなかなか見たことがない」という言葉が何度も聞かれた。笑いやアクションはもちろん、謎解きにどんでん返しとサスペンスの趣向も存分に凝らし、親子や家族のホロッとさせるエピソードもまぶしたぜいたくな一品。日本映画の新たな可能性の扉を開くか、期待は高まるばかりだ。

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