劇場公開日 2017年3月17日

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「ただ楽しいエンタメではもう満足出来ない」SING シング めいさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ただ楽しいエンタメではもう満足出来ない

2017年3月23日
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鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

 『SING/シング』吹替版で観た。廃業寸前の劇場支配人のコアラのバスターは、劇場再起をかけて賞金付歌のオーディションを企画。子育てに追われる主婦のブタや、ギャング親子のゴリラ少年や、ハリネズミのロック少女等、個性的な候補が集まってくる。
 感想としては、良くできたエンターテイメントで、楽しい映画だった。テイラー・スウィフトのShake It Outから、フランク・シナトラの名曲やデヴィッド・ボウイ+フレディ・マーキュリーのUnder Pressure等々、古今の数多くの洋楽有名曲が流れまくるので、気分がノって最後までサラッと観れた。
 ただし、同じく動物世界を描いたズートピアや、マイノリティ達を主役に描いたミュージカルgleeといった、似たテーマを描いた作品を観てしまった2017年現在の今となっては、正直なところ、「ただ楽しいだけのエンタメ」では満足出来ない自分がいた。
 オーディションに出てくるキャラクター達はマイノリティや弱者も出てくるが、各キャラクターの抱えている問題や立場やそれによる葛藤・抑圧は、実社会の社会構造を反映したズートピアほど掘り下げられていない。
 またSINGの世界では歌が各キャラクターの抑圧や呪いからの解放に繋がる装置としての役割を持つが、上に述べた通り、キャラクターの葛藤の描写が薄いため、最後の見せ場である各キャラクターのライブシーンで、解放感というか、私には物語のカタルシスが足りなかったのである。
 SINGがとびきり楽しい映画なのは間違いない。だが、もしSINGがもっとキャラクターの背景や問題を掘り下げ多様性を獲得し、歌にもっと強いメッセージ性が結び付いていたならば、ただ楽しいだけではなく、(例えばgleeのように)他の誰かの物語ではなく、私たちの物語として、心に刻み付ける、もっと強い何かを与えてくれただろうと思う。
 楽しいだけのエンタメで終って欲しくなかった。それが残念である。

めい