トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 : 特集
大人の映画ファンに推奨する2015年度アカデミー賞“トリ”の作品
今明かされる、偽名で「ローマの休日」を書き、2度オスカーを獲得した男の真実
「ブレイキング・バッド」のブライアン・クランストンがアカデミー賞主演男優賞ノミネートを受けた感動の実録ドラマ「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」が、7月22日から待望の日本公開。ハリウッドから追放=最も嫌われながらも、他人名義で「ローマの休日」を執筆、見事アカデミー賞に輝いたほか、「スパルタカス」「パピヨン」でも知られる天才脚本家ダルトン・トランボの激動の半生が、いま詳細に描き出される。
第88回アカデミー賞関連作の《真打ち》
“目の肥えた大人の映画ファン”にこそ見て欲しい本作、その理由とは?
「スポットライト 世紀のスクープ」(作品賞受賞作)を筆頭に、「レヴェナント 蘇えりし者」(監督賞&主演男優賞受賞作)などなど、映画ファンを楽しませてきたアカデミー賞関連作品の“真打ち”として、いよいよ主演男優賞ノミネート作「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」が公開される。
数多く登場した受賞作、ノミネート作の中でも、特に目の肥えた映画ファンにおすすめしたいのが本作。なぜなら、あの傑作「ローマの休日」誕生の裏にあった驚くべき実話を、ブライアン・クランストンほか実力派キャストの迫真の演技によって描き切った作品であり、数々の映画賞で高く評価された実績を持つからだ。
あなたは、“永遠の妖精”オードリー・ヘプバーンの不朽の名作「ローマの休日」が、誰の手によって書かれたものか知っているだろうか。アカデミー賞最優秀原案賞を獲得したのはイアン・マクレラン・ハンターだが、彼は、ダルトン・トランボという人物に名義を貸したに過ぎなかったのだ。いわれなき汚名のためにハリウッドから追放されながらも、偽名を使って脚本を書き続けた天才脚本家トランボ。本作は、長らくハリウッドの本流から排除されていた(“最も嫌われていた”)彼がいかにして2度のオスカーを獲得し、再び映画界に復活を果たしたのかを描く感動の実録ドラマなのだ。
固い信念を貫いた、型破りでユーモラスなトランボを演じ切り、見事にアカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たしたのは、「2000年代最高のテレビシリーズ」と称される「ブレイキング・バッド」のブライアン・クランストン(同作で4度のエミー賞を獲得)。権力に負けず、孤高の映画人として不屈の戦いを繰り広げるとともに、家族に最大の愛を送る父親としての姿が、見る者に大きな感動と興奮をもたらすのだ。
クランストンとともにドラマを彩る共演陣も、映画ファンが納得する布陣だ。トランボの妻を演じるのは、アカデミー賞ノミネート経験を持つダイアン・レイン。トランボの仇敵ジャーナリスト役には、「クィーン」のオスカー女優ヘレン・ミレン。そして追放中のトランボと手を組むB級専門映画会社の社長役、「アルゴ」のジョン・グッドマンが、絶妙な味を披露する。「SUPER 8 スーパーエイト」のエル・ファニングがみせる、トランボとの父娘のドラマにも注目だ。
クランストンのアカデミー賞主演男優賞ノミネートを筆頭に、数々の映画賞での評価が見逃せない。ゴールデングローブ賞では主演男優賞(ドラマ部門)と助演女優賞(ヘレン・ミレン)にノミネート、英国アカデミー賞では主演男優賞ノミネート、そして放送映画批評家協会賞でも主演男優賞、助演女優賞(ミレン)、アンサンブル演技賞のノミネートを受けた。さらにサウスイースタン映画批評家協会賞では主演男優賞を獲得したほか、作品トップ10に選出。ニューヨーク・オンライン映画批評家協会賞でも作品TOP10に輝いたのだ。
「ハリウッドに最も嫌われた男」は、「観客に最も愛される作品」を生んでいた
変人、天才、不屈──映画を見終わったあと、彼の生きざまに胸が熱くなる
他人の名義で「ローマの休日」を執筆、その後も偽名で数々の作品を世に送り出し、2度のアカデミー賞受賞に輝いたという、あまりにも数奇な運命が見る者の心を打つのは、主人公ダルトン・トランボが、型破りで“面白い”人間性を持っていたからに他ならない。名優ブライアン・クランストンが見事に演じ切った天才脚本家は、こんな人物だったのだ。
「天才と奇人は紙一重」ではないが、変人ともいえるトランボの唯我独尊ぶりに目を見張る。自分が正しいと思ったら、周りが何と言おうがとことん自我を押し通すのだ。身を隠して執筆活動を決意する際には、家族全員を呼び出して「俺はこう決めたから」と宣言。妻や子どもたちのプライベートなんてお構いなしに、自分の仕事へと強引に巻き込んでいく。変人ぶりの最たるものが「バスルームでの執筆」。タイプライターを持ちこんで、湯船に漬かりながら脚本を書き進めていくのだ。
オスカーを2度も獲得したのも驚きなのに、さらに驚かされるのが、書き上げるスピードだ。B級専門映画会社からの依頼を請けるようになったトランボが脚本を量産するシーンが登場するが、わずか数日しかない無茶なスケジュールであってもすぐに書き上げ、仲間たちに振り分けた大量の脚本の最終チェックまで行っている。シリアスなドラマからアクション、そしてSFやパニック、ホラーといったジャンルまで、とにかく彼に書けないものなど存在しない。
トランボの生きざまが胸を打つのは、どんな逆境にあっても決して己の信念を曲げず、最後まで権力に屈しなかったからだ。1940年代から50年代にかけて行われたハリウッドの汚点でもある「赤狩り」で、いわれなき疑いをかけられたトランボは、理不尽な弾圧によってハリウッドを追われることになるが、決して筆を折らず、家族の絆を支えに、「偽名を使ってでも書き続ける」という強いガッツで執筆活動を続ける。彼の姿は、人間の最も崇高で最も基本的な権利である“自由”を守り抜くドラマティックな戦いとして輝くのだ。
ジョン・ウェインやカーク・ダグラス、「スパルタカス」製作秘話などなど
大人の映画ファンだからこそ楽しめる「注目の小ネタ」が本作には満載
1940年代から60年代の実際の映画界を描くだけに、本作には当時の映画ネタが満載。長く映画を見てきた大人の映画ファン、過去の映画にも興味を持つ熱心な映画ファンなら、本作の隅々まで存分に楽しめるのは間違いない。
実在の人物の半生を描くだけに、当時の映画スターたちも実名で登場。映画ファンならワクワクさせられる。「駅馬車」「勇気ある追跡」ほかで西部劇の大スターとして君臨していたジョン・ウェイン(演じるのは「犯罪捜査官ネイビーファイル」のデビッド・ジェームズ・エリオット)も登場するが、彼はトランボたちと対立する“赤狩り”推進派の立場を取っていた。スクリーンでの活躍からはうかがえなかったもうひとつの顔が浮き彫りになっているのだ。
名スターの登場では、名優マイケル・ダグラスの父としても知られるカーク・ダグラス(「ホビット」3部作のディーン・オゴーマンが演じる)も重要な役回りで顔を見せている。映画界でのし上がろうとする野心あふれる若者として登場し、あのスタンリー・キューブリック監督作「スパルタカス」のクオリティを一段アップさせるべく、トランボの居場所を突き止め、脚本の手直しと追加シーンの執筆を依頼するのだ。
SFやホラー、モンスターものなど、B級専門の映画会社で、知る人ぞ知るキング・ブラザーズの内幕も本作には登場する。裏社会へスロットマシーンを売りつけてひと財産築き、それを元手に映画会社を立ち上げたというフランク・キング社長をジョン・グッドマンが演じ、ハリウッドの表通りとは異なる映画製作のコンセプトが赤裸々に描かれる。ユーモラスながらも、キングの映画屋としての気骨があふれるグッドマンの快演が見ものだ。
その他にも、ヘレン・ミレン扮する元女優のゴシップ・ジャーナリスト、ヘッダ・ホッパーや、トランボの協力者エドワード・G・ロビンソン(マイケル・スタールバーグ)、トランボの仲間たち“ハリウッド・テン”(ハリウッドを追放された10人の映画人)など、まだまだ注目のポイントが満載。映画を見て気になった登場人物や出来事は、後から調べてみるのもおすすめだ。
代官山蔦谷書店トークイベント開催決定!
「『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』を10倍楽しくみる方法」
7月25日、東京・代官山蔦谷書店にて、作品世界をより深く楽しむためのトークイベントが開催。日本でトランボを最もよく知る映画評論家・上島春彦氏と、書籍「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」の翻訳に心血を注いだ編集者・三宅暁氏のふたりによって、トランボの徹底探求が行われる。