劇場公開日 2016年10月8日

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グッドモーニングショー : インタビュー

2016年10月11日更新
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笑いと真摯に向き合った中井貴一×長澤まさみ×志田未来がつかんだ確かな手応え

日本映画におけるコメディの土壌は、まだまだ肥よくとは言い難い。その端緒を切り開く役割を担ったのが「グッドモーニングショー」の中井貴一、長澤まさみ、志田未来といえる。ワイドショーのメイン、サブキャスターとしてスタジオ、事件現場で奮闘し、セリフの掛け合いの妙味、思惑のズレなどから生じる笑いの連鎖を生み出した。笑わせる演技の難しさを知るからこそ、どのような思いで挑んだのか。現場からリポートします。(取材・文/鈴木元、写真/根田拓也)

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職業柄、注視することも多いが、一般的には朝は出かける準備をしながら何げなく見ている印象が強いワイドショー。普段は取材される側で、プロモーションなどで出演することもある3人。中井の見識が深い。

「取材される側から見るとショーだなという感じがします。そこに真実の有無は関係ない、それぞれが意見を言う場所なんだろうという思いで見ています。僕なんか、朝起きてワイドショーで自分の陥っている立場を知るってこともありましたから。だから、真実が自分になくなっていくのが一番怖い。せめて、僕の真実は伝えてくれという思いは皆持っているんじゃないかという気はします」

朝の情報番組「グッドモーニングショー」のキャスター・澄田真吾は、かつて報道畑のエースだったが、災害現場でのトラブルで世間の批判を浴び降板。ワイドショーに拾われた苦い経験を持つ。君塚良一監督が中井を当て書きしたと聞けば、演じる側も本望だろう。

「そりゃあ、うれしいですよ。何があってもやろうと思います。役者っていうのは役の大小を問わず、この役はどうしてもあなたにやってもらいたいと言われるのが何よりも幸せなこと。即決でしたね」

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いつもと変わらぬ形で生放送がスタートしたが、都内で銃と爆弾を持った男による立てこもり事件が発生。しかも、犯人の要求は澄田その人。交渉役として現場に駆り出されるハメになり、にわかに全国的な注目を浴びるようになる。中井は、「あるアナウンサーの最悪な1日」と副題をつけた。

「人間誰しも、ついていない日ってありますよね? 急いでいる時に限って、信号が毎回赤だったり、踏み切りもなかなか上がらないとか……。ちょっとデフォルメはしているけれど、誰にでもある1日を表している面白みを感じました。番組(の視聴率)が良くない、クビが飛ぶかもしれないという時に、命を懸けなきゃいけないけれどチャンス到来っていう、澄田にとっては最悪の日であり命をつなげる最良の日なんだろうと」

番組は一気に事件現場との同時中継となりリアルタイムサスペンスの装いをまとうが、ベースはコメディ。澄田をはじめスタジオで成り行きを見守る女子アナらが懸命に、必死になるほど笑いのツボを押され吹き出してしまう。君塚監督はもともと萩本欽一に師事しただけに、いわば原点回帰。緊張感の中に的確に笑いをまぶす、絶妙なあんばいだ。

長澤「皆、何かしらしでかすけれど、とても誠実でいい人ばかり。それぞれが自分の気持ちに素直というか、自分を信じているなって思います」
 志田「ウソがないって思います。無理に笑わせようとしていないし、まじめにやっているからこそ、くすっと笑ってしまう。だから頑張って演じているというよりは、自然にその場で生きている感じでした」
 中井「リアリティとファンタジーの融合がうまいんでしょうね。ベースとしてはリアリティがあるけれど、演じて出てくるものはファンタジー。そこが君塚さんの本の素晴らしいところだと思いますね」

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その中で唯一、ビジュアル的に爆笑したのが澄田が犯人と対じする際に身に着ける防爆スーツ。まさにモビルスーツのような重装備。しかも、撮影は昨年8月だっただけに、中井はその苦労を声を大にして訴える。

「ホント、ものすごく暑かった……。ゆるキャラの中に入っている人の気持ちが少し分かるみたいな。まずシールドを開けると息ができようになって、真夏から夏の終わりくらいの感じになる。次にヘルメットを外した時に秋がくるという感じ。人間って苦労した方がちょっとのことで幸せを感じるんだって勉強させていただきました(笑)」

事件は番組の冒頭で起き、澄田はすぐに現場に向かうため、スタジオでの3人での共演シーンは意外に少ない。脚本上は分かっていても、想像力を膨らませながらの演技。中井にとっても特異な経験だった。

「どちらかといえばこれからが始まりなんだけれど、皆を送り出してから現場に入るという本当に不思議な感覚でした。一緒の映画に出ている感じがしない、同じカマの飯を食った感じがしない、本当に初めての経験でした」

一方の長澤と志田も同様に、現場での映像を見られないままの芝居を強いられた。中井も「難しかっただろうな」と気遣ったが、ここでは君塚監督が1シーンごとに“代演”したことが役だったという。

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長澤「今ここで、こういうことが起こっていますというのを逐一言ってくださいました。監督が鬼気迫る感じで緊迫感をつくってくださったので、イメージが沸きました」
 志田「現場の写真をもらって、ここに澄田さんが立っていますという動きなどを細かく言葉で説明してくださいました。その説明を聞きながら想像を膨らませていました」

立てこもり事件とスタジオ、2つの現場で生み出された笑いのパーツが収れんし、心温まる余韻を残す。笑いと真摯に向き合ったからこそ、中井はその大切さを説き、長澤と志田も同意する。

中井「役者として一番難しいのはコメディなんです。評価はされないかもしれないけれど、見る人にとっては大切な分野だと思う。嫌なことがあってもちょっと忘れられる、笑ったことで元気になる、そういう意味であえて難しいことをやり続けていくことに意義があるとずっと思っているんです。その挑戦は手を休めないで進めていきたいし、この作品が多くの方に見ていただけて面白かったと言ってもらえれば、日本全体がいい方向に向かっているということなんじゃないかと思うんです」
 長澤「昔は見る側として、コメディを受け入れられるタイプじゃなかったんです。それが大人になっていくにつれて価値観が変わって、お笑いブームもあったりして受け入れる幅が広がったというのは感じています」
 志田「感動させようと思って、例えば泣くお芝居なら感情をどんどん上げていけばいいれど、笑いのツボは人それぞれ違う。でも、笑いを意識しすぎるとコントみたいになってしまいます。分野としては、一番難しいんじゃないかと感じました」

それぞれの闘いに苦労をしのばせながらも、一様に晴れやかな笑顔からは確かな手応えが感じられた。現場からは以上です。

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