劇場公開日 2016年4月9日

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「シリアスと笑いの、相性の悪さが生んだ良作」モヒカン故郷に帰る Cディレクターシネオの最新映画レビューさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0シリアスと笑いの、相性の悪さが生んだ良作

2016年5月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

AKB48には興味がなかったけど、

女優前田敦子が好きなので鑑賞。

彼女は「もらとりあむタマ子」で開花して

「さよなら歌舞伎町」「イニシエーション・ラブ」とよかった。

生っぽく艶がある演技と、

作品の空気を変える世界観に、女優力を感じます。

そういえば、前作に続いて松田兄弟と共演なんて、

これも面白いですね。

あとは、いつものように知識もなく。

タイトルが3流ぽいけど、

実力派俳優が固めているし、外さないだろうと...

劇場は邦画の聖地、大好きな「テアトル新宿」。

平日18時の回で、8割埋まっていたのは意外でしたが(笑)

作品は、なかなか良作でしたよ。

思わぬ拾い物です。

親父の死を受け入れていくシリアスな家族のお話だけど、

少しだけコメディなのがこの映画の魅力。

そして泣かせようという意図も、インチキなセリフも、

媚びた田舎表現も排除されている。

等身大で共感できる時間の作り方だから、

その家族と共に生きている島の人たちのような、

不思議な気分。

そこにほっこりする瀬戸内海、

広島下蒲刈島のやさしい風景や、

あたたかな島人たちの日常が入ってきて、

すっかり癒されます。

しかし淡々と流れるのではなく、

しっかり置かれているいくつかの印象的なシーンが、

この映画を深いものにしていました。

沖田監督は南 極料理人も良かった。

確信犯的に計算しつくした演出と脚本に、

才能を感じますね。前作も観てみよう。

キャラの設定がいいですね。

デスメタルのボーカルでヒモ生活の主人公に、

できちゃった婚する能天気なオンナノコ、

広島生まれで永ちゃん命の親父さん...。

色をつけるのは、クールで正直な松田龍平くんに

おちゃめな前田敦子さん、

そこにいぶし銀な柄本明さんともたいまさこさん。

おのおのの力量が息吹を注いで、

ベタな設定も見事に愛おしいキャラに。

榎本さんは本当にすごいですね。

元気からガン末期患者の移り変わりは、壮絶です。

前田さんともたいさんの嫁姑の関係は、本当に素敵。

こんな家族、憧れます。

「YAZAWAは広島の義務教育です」といって、

中学吹奏楽部に「I LOVE YOU OK!」を

いやいや演奏させてる親父さんに、

僕はひとり劇場で大笑いしてしまいました。

高校時代の僕の先輩が矢沢永吉の大ファンだったのですが、

その奇妙な行動に影で面白がってたものです。

いつもロゴ入りバスタオルを持っていて、

白いテープの巻かれたマイクスタンドがある部屋は

ポスターをだらけで、

白い上下のスーツを着て、車には特大ディカール。

親父さんのディテールも、

そんなファンを再現した監督の遊びが満載です。

永ちゃんファンも、きっと楽しめますね。

「親って死ぬんだな、わかってたつもりだけど..」

誰もが知ってるそんな切ない気持ちが、

胸に響いてくる。

父と息子の不器用な親子愛が、

この映画のホントのテーマ。

けど笑いという相性の悪い装置で、

不思議な空気に包まれている2時間。

悲清々しいという観後感の、

今までにない面白い体験でした。

Cディレクターシネオの最新映画レビュー