劇場公開日 2015年7月3日

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チャイルド44 森に消えた子供たち : 映画評論・批評

2015年6月30日更新

2015年7月3日よりTOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー

全体主義国家において保身に走る官僚たちのグロテスクなまでに戯画化された醜悪さ

1953年、スターリン独裁政権下のソ連で子供ばかりを狙った未曽有の連続猟奇殺人事件が起こる。秘密警察の捜査官レオ(トム・ハーディ)は親友の息子の死を契機に事件の真相を探ろうとするが、地上の楽園を標榜する理想国家にあっては病理的な殺人者という存在を認めておらず、理不尽な上層部は事件そのものを闇に葬ろうとする。

冒頭で、ウクライナの孤児院を逃亡した少年が軍人に拾われ、レオと名づけられて、第二次大戦のベルリン陥落で英雄となった短いエピソードが後半、じわりと効いてくる。スパイ容疑者を逮捕する際、匿った夫婦を無慈悲に射殺した部下を殴打し、孤児となった幼い姉妹に慰めの言葉をかけるレオの表情が印象的だ。あるいは妻のライーサとの馴れ初めを自慢げに語る際の無邪気な貌。トム・ハーディは時おり見せる柔和な微笑が魅力的で、また、その冷酷なエリートになりきれないひ弱さゆえに、組織の奸計(かんけい)に翻弄され続けることになる。処刑を間一髪免れたレオは妻のライーサとともに辺境のような地方都市へと左遷される。そこで出会った偏屈な警察署長ゲイリー・オールドマンがいい味を出しており、ふたりの奇妙な連携によるシリアルキラー捜索が後半の見所となっている。

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原作は世界的なベストセラーだが、製作のリドリー・スコット、監督のダニエル・エスピノーサが注視するのは、いわゆる犯人捜しではなく、誰もが根深い相互不信に陥った全体主義国家において保身に走る官僚たちのグロテスクなまでに戯画化された醜悪さである。全篇が冷戦下のソ連邦の痕跡が残るチェコのプラハ周辺で撮影されており、スターリン体制下の息が詰まるような不気味に淀んだ〈空気〉が鮮やかに画面に定着されている点も特筆しておきたい。

高崎俊夫

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