劇場公開日 2015年6月19日

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「「暴力装置」に服従はしない」グローリー 明日への行進 ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「暴力装置」に服従はしない

2015年7月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

知的

「I Have a Dream!」の演説で有名なキング牧師のお話であります。
物語は、キング牧師がノーベル平和賞を受賞した直後から始まります。一人の牧師の活動として、また、一人の人間の人生において、最も輝ける山の頂上に達した、とばかり僕は思っていたんですが、この映画を見ると、そうではなかったんですね。
公民権制定後もアメリカ国内、特に南部では「厳しい」なんて生易しい言葉では済まされない、とんでもない状況であったことがわかります。
キング牧師自身も一人の夫であり、奥さんも、子供達もいる。
一家団らんの夜、牧師の家に電話がかかる。
「お前の子供が吊されるのが楽しみだぜ!」
脅迫電話です。
ノーベル平和賞受賞者の家族が、なぜ、これほどの脅しと侮辱と威圧を受けねばならないのか? 人として、賞賛と敬意を表するならわかるんですが、実際はこんな目に遭っていたんですね。
さらにはFBIによる、組織的なキング牧師宅の盗聴と脅迫。
「ホンマかいな」と疑いたくなるでしょうが、これが、たった50年前に実際にアメリカで起こっていた事実であり、現実であったのです。
もっともひどい黒人差別が行われていた、南部アラバマ州。キング牧師たちはアラバマ州セルマから、州都モンゴメリーまでのデモ行進を計画します。
彼の元には、やがて白人からも多くの協力者が現れます。
「私達もデモに参加させてください」
デモの当日。キング牧師たちはデモ隊の先頭に立って、互いに腕を組み、静かに歩き始めます。目の前に立ちはだかるのは、銃と、こん棒で武装した州警察。その後ろには軍隊まで。それに向かって彼らは、静かに、しかし、着実に一歩を進めてゆくのです。
キング牧師については「非暴力」を貫いたことでよく知られています。
彼はガンジーの「非暴力・不服従」運動に大いに共感していたのですね。
当時のアメリカに住む黒人たちには「選挙に参加する」という「権利そのもの」がありませんでした。
投票箱がありますね。投票用紙に立候補者の名前を書く。そして投票箱に入れる。これで一市民が自分の意思を表明できる。国の政治に参加できたわけですね。
この「投票用紙」という紙切れを「投票箱」に入れる「権利」。
僕自身、二十代、三十代の頃は投票を、よくサボってました。今更ながら反省するものですが、ようやく五十代になってから、選挙に欠かさず行くようになりました。
いま、選挙に行っていない皆様。ぜひ本作をご覧になってくださいませ。
1960年代、この「投票用紙」を「投票箱に入れる権利」
その権利を勝ち取るために、どれだけ多くの黒人たちの命が奪われたのか。
僕たちはもういちど、襟を正して「投票」という行為、国の政治に参加する、その重さを噛み締めてみるべきだと思います。
本作では、黒人たちのデモ行進に参加した、白人が襲われるシーンがあります。善意でボストンから、わざわざ駆けつけたこの白人男性。しかし……
「黒人に協力するヤツらは、白人であろうと容赦しない」
差別主義者たちの返答は「暴力」によって彼の命を奪うことでした。
いま、この日本の国でも、政治が多くの関心を集めております。連日、国会議事堂の前には、抗議のデモが行われております。
ところで「国家とはなんぞや?」という大命題があります。ちょっとしらべてみましたら、びっくりする答えがありました。
マックス・ウェーバー曰く「最大の暴力装置を持つものが国家である」
「暴力」という側面から考察してゆくと、比較的、国家というものが定義しやすいらしいのです。
国家は裁判で人をさばき、最終的には自国の国民を「殺す権利」さえあります。
「暴力は使わない、でも悪政に対して服従はしない」
これは最も崇高な人間らしい、信念ではないでしょうか?
ぼくはガンジーさんが大好きです。
「佳いことは、カタツムリのように進むのです」という彼の言葉が大好きです。
猛スピードで、法律を作ろうとする人たちがいます。
なぜそんなに急がねばならないんだろう?
世界で最も大きな暴力装置、そのシムテムのなかに、このクニはいま、歯車の一つとして組み込まれようとしている。
その現実に対して、ぼくは静かに抵抗し、服従したくはないのです。
なお、本作は女性監督の手によって制作されました。アメリカが、自ら暴力の渦のなかへ突き進んだ結果、招いてしまった現在の混迷。そのなかで「非暴力、不服従」の精神の象徴でもある、キング牧師の映画を作ろうとしたこと。エバ・デュバーネイ監督をはじめとする、スタッフ、キャストの皆さん、その気高い精神に、敬意を表したいと思います。

ユキト@アマミヤ