劇場公開日 2015年9月4日

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「よくある話、でも丹精かつ端正」ヴィンセントが教えてくれたこと 鰐さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5よくある話、でも丹精かつ端正

2015年9月4日
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鑑賞方法:映画館

悪たれジジイが孤独なガキと魂の交流をやるハートフルムービーなんて昔からいくらでもあって、そんなものを今更、しかもどうみても「悪たれ」感ゼロの弱々しいビル・マーレイに任せるなんて投げっぱなしも甚だしいな、と思ってたらこれが意外に観られる出来。
脚本の道具立てははっきり言って陳腐だ。
離婚してたのシングルマザー、雑な転校生いじめ、「実はさびしい」いじめっこの真実、実はやさしい一面もあるクソジジイ、学校の宿題に絡めて盛り上がるクライマックス……いずれもどこかで見たような展開や描写ばかりで、しかも先行作と異なるアプローチや掘り下げが行われているとは言い難い。

それでもエンドロール後、お涙を頂戴どころか押し付けられて辟易するのでなく、すなおに「良いものを観たな」という晴れやかな気分で劇場を出られたのは、劇中のワンショットワンショットに微塵も手抜きがなかったからだろう。
全体として、なめらかなのだ。
新人監督が陥りがちな気取ったフォトジェニックをぎりぎりで抑えた、つなぎの演出はするりと眼孔を通る。おかけで散見されるMV的な演出も浮かずにピースとしてきっかりハマっている。
一方ビル・マーレイもなめらかさに徹している。イーストウッドやジャック・ニコルソンみたいな近所にいたら確実にお近づきになりたくないクラスの偏屈さでもなく、かといっていつもの哀し良い人マーレイさんでもない、ちょうどいい塩梅の「近所のおっさん」に収まっている。
競馬で大負けするシーンは象徴的で、破滅することがわかっててやっているような、でもその自覚は定かでないような、そういう微妙なバランスが取れている。
主張しなさ加減でいえば、ロシア人娼婦役のナオミ・ワッツもわきまえまくっている。元スーパーモデルがそんな役づくりで逆にいいのか、ってくらい堂に入った場末の娼婦っぷりだ。
まあ、その他ピュアなガキを含めた脇役陣も軒並みちょうどいいなめらかさ加減。唯一、テレンス・ハワードが不調和だった気もするけれど、彼やキューバ・グッディング・ジュニアクラスの黒人俳優のキャスティングの難しさはこの映画にかぎった話ではないし。

まあまあ、そんなちゅうくらいの心地よさに満たされた、ハートフル映画です。
ポスターや予告から期待できる程度の胸キュンは確実に保証してくれます。

鰐