劇場公開日 2015年2月14日

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「裸の王様」フォックスキャッチャー よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.0裸の王様

2015年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

 金で買うことの出来るものなら手に入らないものは何一つない。アメリカの財閥の御曹司ジョン・デュポン。彼が欲しがったのは金では買うことの出来ない名誉、敬意というものだった。
 経済力を使ってレスリングチームの「コーチ」の座を手に入れるのだが、しょせんは金にものを言わせたパトロン。
 映画はデュポンの虚栄心や孤独、そしてデュポン家の人間にふさわしい名誉をなんとか獲得しなければならないという焦燥感を丹念に描いている。そしてそのような人間の怖さを知るマークと、そのような人間に全く善意の無頓着さを表すデイブの対比も鮮やかに映し出す。
 主演のスティーブ・カレルが、コメディ俳優出身とは思えない陰鬱な人間像を演じている。座面に背中を接するほど深くソファに沈み、常に遠く見つめるようなくすんだ瞳。カメラは執拗に彼を正面からとらえる。まるで尊大な人物が自らの意志でカメラを自分のほうへ向けようとするように。
 マークを演じるチャニング・テイタムには、あえて顔に陰翳が生じるような角度からの撮影が多くデュポンと兄デイブの間で揺れていることを観客に感じさせる。
 そして、デイブは努力と才能によって成功を収めた人間に特有の無頓着さを表している。マークとは対照的に、マーク・ラファロの髭面は何の陰もなく撮影されている。その瞳は明るいが思慮に乏しく単純で明快なものである。
 デュポン本人も周囲も、デュポンがそのチームのリーダーで若い選手たちの敬意を集めているという演出に勤しむ。しかしそんな彼の名誉欲はレスリング選手たちには理解されない。なぜなら、彼ら選手が名誉に浴するのは、試合に勝利した時であり、手に入れることは困難ではあるがその名誉の理由が単純明快だからだ。
 結局、最後までデュポンは選手たちからの敬意を得ることはない。
 彼のその欲望を理解できなかった者は、裸の王様が裸であることを、王様自身に痛切に思い知らせていることに無自覚だ。その無自覚がときに悲劇を招くことになるのだが。

佐分 利信