劇場公開日 2013年7月20日

風立ちぬ : インタビュー

2013年7月17日更新
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“楽しい”を原動力に、ジブリヒロイン抜てきの瀧本美織「緊張なんてもったいない」

「うわあ、すごい人! こんなにたくさんの方が来てくださったんですね」。6月某日、都内で行われたスタジオジブリ最新作「風立ちぬ」の声優発表会見に出席した女優の瀧本美織は開口一番、駆けつけた報道陣の多さに驚きの声をあげた。初の声優挑戦にして、ジブリ作品のヒロインに大抜てき。さぞ緊張しているかと思いきや、終始、はつらつと質疑に応じる姿が印象的だった。晴れて作品が完成し、取材に応じた本人に「プレッシャーはなかった?」と聞くと、「自分が世界中で愛されるジブリ作品に出演できるなんて、素直にすごいなと思うし、いい作品を届けるために精一杯やりたいなって。だから、緊張なんてしていたら、もったいないですよ」と頼もしい言葉が返ってきた。まさに、新たなジブリヒロインの誕生である。(取材・文・写真/内田涼)

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映画は、宮崎駿監督の5年ぶりとなる新作長編アニメーション。幼い頃からの夢を実現させ、飛行機の設計技師になった主人公・堀越二郎が、戦争へと突入する激動の時代に、「美しいヒコウキを作りたい」という純粋な思いと裏腹に、世界屈指の戦闘機であるゼロ戦を生み出した“矛盾”と向き合う姿を描いた。瀧本は二郎の一目ぼれの相手であり、のちに結婚し妻となるヒロイン・里見菜穂子を演じている。

「菜穂子を通して、人を愛する偉大さを教えられた気がしますね。妻として、大きな夢に向かって頑張る二郎さんをひたむきに支えるのはもちろん、菜穂子自身も大好きな人のそばにいられる幸せを噛みしめている」。背後から戦争の足音が近づき、結核をわずらう菜穂子には命のタイムリミットも迫っている。「だからこそ、1日1日を大切に生きる夫婦の姿はとても愛おしいなって。菜穂子に限らず、すべての登場人物が壮絶な時代を一生懸命に生きていて、清々しささえ覚えるし、私自身ピンと背筋が伸びる思いです」

「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズで知られる庵野秀明が主人公・二郎を演じており、「庵野さんとご一緒させていただくときは、もちろんその場に宮崎監督もいらっしゃるので、思わず『監督がふたりいる』って(笑)。実際、おふたりから違った指示をいただくこともあって、『どっちの言うことを聞けばいいんだろう……』って感じになりました」。そんな裏話を弾んだ声で語ってくれるのは、アフレコが順調だった証拠だ。

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これまでのジブリ作品には珍しく、劇中には“大人のキスシーン”も登場するが「庵野さんとお相手していただき、すんなり演じることができました。アフレコ全体を通しても、テストだと思ったら『今のでOK』って本番テイクになったり、とにかく自然体でいられた。キャラクターに気持ちを乗せていくという点は、ふだんの演技ともあまり変わりません。だから2日間のアフレコは、自分のなかでもあっという間で、『もっと菜穂子でいたい』という気持ちになりました。本当に楽しい経験でしたね」

何事にも“楽しい”とのめり込める姿勢が、女優・瀧本美織にとって大きな原動力になっているのは間違いない。NHK連続テレビ小説「てっぱん」で注目を集め、その後もテレビ、映画と幅広く活躍。特に2013年は、初の時代劇となるBS時代劇「妻は、くノ一」、初の映画主演を飾る「貞子3D2」(8月30日公開/英勉監督)、そして本作で声優に初挑戦と“初もの”尽くしの一年となり、女優としてさらなる飛躍を遂げた。そんな自分の置かれた状況に「すごいですよね、自分でもすごいなあって……。はい、すごく楽しいんですよ!」とやはり“楽しい”が止まらない。

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「この一年は本当に“濃い”という言葉がぴったり。作品を通して、毎回新しい出会いがあるし、さまざまな役を生きることで『自分のなかにこんな感情があったんだ』と気づかされる。うれしいのは、私が感じ取った気持ちや発見を、見てくれる皆さんに届けられること。この連鎖はすごいなって、最近強く思うんですよ」

もちろん、本作で演じた菜穂子からも大いに刺激を受けている。「舞台は私にとって遠い過去かもしれませんが、だからこそ『今を生きている』『私がここにいる』ことのすごさに圧倒されたり、感動したり……。今という時代がキラキラと見えるようになり、背中を押された気持ちです。この気持ちを大切に生きていきたいし、演技に対する姿勢もそうありたいと思っています」。まさに本作のキャッチコピーである“生きねば。”の精神を、ヒロインを演じることでしっかりと受け取ったようだ。

現在21歳で、子どもの頃からごく普通にジブリ作品と接してきた世代だけに、初めて見たのは『となりのトトロ』だという。「いつどんなシチュエーションだったかは覚えてなくて。それくらい自然な存在ですね、ジブリ作品は」。お気に入りのジブリヒロインを聞いてみると「ヒロイン、というよりはヒロインを支える女性が印象に残っています。例えば『千と千尋の神隠し』のリンや、『魔女の宅急便』のウルスラとか。シャキシャキしていて男勝り、さっぱりと気持ちのいい女性が好きなんです」

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