「より高く。」世界にひとつのプレイブック みつまる。さんの映画レビュー(感想・評価)
より高く。
男女の恋愛ドラマは時代の変化と共に、様々な進化を見せて来ました。
この作品を単純にラブコメディと位置付けてしまっていいものだろうか?と言った疑問が、ふつふつと沸いて来ます。
実はアメリカの現代社会が抱える様々な病巣を、笑いと涙のスウィートなオブラートに包み込んで、提示しているのではないかと考えられますね。
今までの恋愛ドラマでしたら、主人公は破局もしくは死別により恋人を喪失してしまい、心に深い傷を負うわけですが、ここでは妻の浮気が原因で、暴力事件を起こしてしまったパットが躁鬱病を発症し、裁判所の接近禁止命令により強制的に最愛の人を失ってしまうわけです。
当の本人にとっては、予想だにしなかった理不尽な出来事かもしれません。
今でも妻は自分の事を愛してくれているんじゃないか、と言う余りにも自分勝手な妄想は家族にも周囲の人たちにも、多大な迷惑を掛けて行きます。
躁鬱病は自分が病気である事の自覚が薄い疾患だと言うことが、次第に視聴者にも伝わって来ます。
ここでパットに同情出来るか、出来ないかで、この作品の評価は真っ二つに分かれると思いますね。
彼が唱える「世の中は残酷でつらい。前向きな生き方も幸せな結末もウソだ」の意見に同調するのであれば、このDVDの再生をここでストップすべきだと思います。
映画の後半ではダンス映画の側面も見せてくれる本作ですが、余りにもハリウッド映画っぽい楽観的な事態の収拾に不安は隠せません。
精神障害を患うほどに心が病んでいた人間が、ダンスを習う過程で新しい恋に出会い、リハビリ完了とは余りにもお手軽過ぎやしませんか?恋は媚薬とも言いますが、この気性が激しく、また不安定なティファニーとの恋愛は劇薬以外の何ものでもないでしょう。
鑑賞後に「ふざけるな!」と言って、窓からこのDVDを放り出した人は実際にいたかもしれません。パットがヘミングウェイの『武器よさらば』の書籍を窓から放り出したようにね。