「ドイツ表現主義の美術セットとユニークな衣装の演劇映画」朝から夜中まで Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ドイツ表現主義の美術セットとユニークな衣装の演劇映画

2022年6月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ドイツ表現主義映画としてロベルト・ヴィーネの「カリガリ博士」と共に有名な作品というのだが、これは特に日本だけの話のようである。原作は、表現主義の代表的な劇作家ゲオルク・カイザーによるもので、1917年にベルリンのドイツ劇場で初演された舞台劇の映画作品。監督のカール・ハインツ・マルティンも当時表現派演劇の演出家として定評のあった人と謂われる。セット重視の舞台劇を再現した演劇要素が高く、映画的空間処理の新しさはない。

ストーリーは単純そのものだった。実直で平凡な銀行の出納係がある日為替を受け取りに来た美しい女性を一目見て虜になり、遂には銀行の金を持ち出し、家庭を犠牲にしてまでその女性と一緒になろうと欲するが拒絶され、結局は元通りの生活に終止符を付けなくてはならなくなる悲劇。男の一時の気の迷いが人生を狂わせる普遍的で教訓的なお話を深刻に描き出している。しかし、見所は美術セットと衣装だった。主人公が逃げる道に雪が降り注ぐ人工的な美しさとデザインがユニークな衣装は、現実的な世界観から飛躍した表現のための美と形を狙っている。この時代の映画表現に新しさを求めての斬新な挑戦はヒシヒシと感じられる。

同時上映の「リズム21」「対角線交響楽」は、簡略されたデザインの楽器と四角い白と黒の大小に変化するアニメーション映画。当時としては画期的なものだったと思われるが、今日ではテレビで在り来たりな映像表現になっている。本来伴奏があったと思われ、その点が残念だった。

  1979年 5月29日   フィルムセンター

Gustav